国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

「開発」を生きる仏教僧(2013)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|研究成果公開促進費(学術図書) 代表者 岡部真由美

研究プロジェクト一覧

目的・内容

■ 目的
本書の目的は、貧困、エイズ、環境などの現実的課題に取り組む仏教僧を対象に、仏教と不可分なタイ社会特有の「開発」のあり方を明らかにすることをとおして、急速な近代化ならびにグローバル化に直面する現代世界における、開発言説の生産と宗教実践の変容との相互作用の動態を民族誌的に解明することである。またそれにより、人類学における開発研究と上座部仏教研究とを架橋することを目指している。
■ 内容
本書は、まず、社会学ならびに開発論の先行研究を批判的に検討し、「開発僧」を、国家やNGOによって多元的に生産される開発言語のひとつとして位置づけるとともに、そうした言説の生産過程に僧侶が巻き込まれてきた歴史的経緯を示す。また、北タイ・チェンマイの事例考察から、僧侶が、タイ社会における開発言説の生産過程に巻き込まれる一方、さまざまな現実的課題に取り組むことをとおして、国家や地域コミュニティと自らの関係をつくりかえながら行為主体性を発揮し、世俗領域においてカリスマ性を追求する姿を描出する。このように、開発人類学の視点から、僧侶の実践を開発言説との相互作用のなかで動的に捉えることを可能にする本書は、従来の「開発僧」研究の問題点を乗り越えるだけでなく、僧侶が地域コミュニティにおける儀礼や民俗知識の継承を担い、またサンガという教団組織を介して主権や国家の政治と深く関わってきたことを明らかにするにとどまってきた、人類学の上座部仏教研究に対しても新たな理解を提示するものである。