国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

現代インドにおける染織技術の戦略的継承法に関する民族芸術学的研究(2014-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 上羽陽子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、現在の手工芸文化において、伝統的技術がどのように継承され、現代的要素がいかに組み込まれているか、現代インドをフィールドとして解明することを目的とする。インドにおいては、経済自由化が進められた1991年以降、手工芸文化の形態が多元的で複雑な様相をおびるに至っている。本研究では、理論的には染織技術の戦略的継承法、宗教儀礼における布の役割、事例としては、女神儀礼用染色布の生産現場、宗教儀礼での使用状況、インド国内外の観光客との相関関係に関する研究を念頭に置きつつ、民族誌的記述分析を通じて、手工芸文化に関する民族芸術学的考察を行う。最終的には、グローバル化された現在の手工芸文化の特質を明らかにし、さらには手工芸文化論や染織研究に対する理論的貢献を試みたい。

活動内容

2017年度活動報告

本研究は、現在の手工芸文化において、伝統的技術がどのように継承され、現代的要素がいかに組み込まれているか、現代インドをフィールドとして解明することを目的としている。
最終年度となる本年度は、カナダのオタワで開催された「IUAES2017」(会場:オタワ大学)において、「Fashionable tradition: innovation and continuity in the production and consumption of handmade textiles and crafts」のパネルにて、「Strategic Production in Response to Value Orientations : Dyed and Printed Textiles for Goddess Rituals in Gujarat State, Western India」、『第59回意匠学会大会』(会場:秋田にぎわい交流館)にて「染織技術の戦略的継承法―インド、グジャラート州の女神儀礼用染色布を事例に―」のタイトルで研究発表をおこない、本研究課題に関連する研究者との情報交換や意見交換をおこなった。これらの研究成果については平成30年度に英語論文として報告予定である。

2016年度活動報告

本研究は、現代インドにおける染織技術に焦点をあて、伝統的技術がどのように継承され現代的要素がいかに組み込まれているかをフィールドワークによって解明することを目的とする。
本年度は、インド、アフマダバードの女神儀礼用染色布の生産現場およびデリーにてインド政府によるクラフトマーケットおよびローカルマーケットでの儀礼用染織布の販売状況について聞き取り調査を行った。生産者コミュニティにおいては、男性が中心となって儀礼布の生産をおこなっているが、女性と子どもが手間のかかる彩色や媒染剤の塗布などの仕事に従事していることから、コミュニティ内の役割分担を明らかにした。加えて、道具のイノベーションや新しい染料の導入など生産から販売への戦略を調査することができた。デリーにおいては、ローカルな文脈で流通している儀礼用布が外国人や都市中間層に向けて意匠や大きさなどを変えて販売されていることが明らかになった。
また、イギリスの大英図書館にて以下の2点を中心に所蔵の文献渉猟を実施した。
一つは、植民地時代のイギリス・インド省資料における女神儀礼用の染織布に関するもの、もう一つは、19世紀後半のインド村落実態調査の報告書に関するものである。現在、現地調査を進めている複数の地域における生業や生産物の19世紀後半の状態が明らかとなり、貴重な基礎的資料の収集ができた。
成果の公開については、『意匠学会大会』等において、研究発表することで本研究をより地域的・理論的視点から検討しなおすことができた。さらに、「『見方』を開発――インドの染織資料が見えてくる」と題し、インドの染織布の社会的・文化的背景を学校教育において理解を促すための論考を発表するとともに、『学校と博物館でつくる国際理解教育のワークショップ』(国立民族学博物館調査報告(SER)138号)を編集し、刊行した。

2015年度活動報告

本研究は現在の手工芸文化において、伝統的技術がどのように継承され、現代的要素がいかに組み込まれているか、現代インドをフィールドとして解明することを目的とする。 本年度は、デリーおよびグジャラート州カッチ県において、女神儀礼に関する染織品の市場および制作現場の現状調査を実施した。
カッチ県は2001年の大地震によって被災した地域であり、その影響によって衣装や家屋など多くの物質文化が変容した。本調査において、女神儀礼における物質文化の変容に焦点をあてた結果、それまで奉納されていた女神儀礼用布がタイル装飾に置き換えられ、対象社会において表象とされていた染織布に対する意味づけや価値づけが変容していることが明らかとなり、検討課題が浮かび上がった。さらに、資料収集に関しては、大英図書館に所蔵が確認されているインド染織関係資料の調査も遂行した。
成果の公開については、共同研究会「表象のポリティクス-グローバル世界における先住民・少数者を焦点に」、共同研究「現代「手芸」文化に関する研究」の場で研究発表をすることで、本研究をより広い地域的・理論的視野から検討し直すことができた。現在、得られた資料を整理しており、できるかぎり早期に論文として発表する予定である。

2014年度活動報告

本研究は現在の手工芸文化において、伝統的技術がどのように継承され、現代的要素がいかに組み込まれているか、現代インドをフィールドとして解明することを目的とする。
本年度は、次年度の本格的な現地調査にむけて、インド西部およびデリーにて現地調査をおこなった。インド西部の女神儀礼用染色布の生産現場と使用現場において、実際に制作に従事しながら、予備調査をおこなった。同時に資料収集に関しては、アーメダバード県を中心に、研究対象に関する古文書渉猟も遂行した。さらに、デリーを中心とした大都市の手工芸関連マーケットにおいて、染織品の流通や消費者動向についても聞き取り調査を実施した。
本研究の成果としてインドの染織技術に関するフィールドワークに焦点をあてた単著(『インド染織の現場-つくり手たちに学ぶ』(フィールドワーク選書12)臨川書店)を発表した。また、これまでの研究・収集の成果を国立民族学博物館本館南アジア展示場で公開した。