国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

現代ロシアにおける新異教主義――歴史認識、マイノリティ性、地位向上運動に注目して(2014)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 藤原潤子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

新異教主義(ネオベイガニズム)とは、キリスト教などの世界宗教が受容される以前の民族独自の文化を現代に復興しようとする思想運動である。欧米で広く見られるが、旧社会主義閣においてはポスト社会主義l時代の民族アイデンティティを支えるものとして生じた。本研究の目的は、ソ連崩壊から20年以上を経た現在のロシア社会における新異教主義運動の位相を、民族誌として描き出すことである。
研究内容は以下のとおりである(1)思想内容の把握。A)異教迫害の歴史を訴え、謝罪と補償を政府と教会に求める新異教主義運動の実態とその歴史認識を明らかにする。B)新異教主義には、過激な人種主義に走る~団と、民族問の究容・共存を訴える集団の両極端が存在する。各集団のロシア人観、人種概念、選民意識などを精査し、寛容性と不寛容性の分l岐は何かを考察する。C)中世:から続くキリスト教と異教の戦いの現在における展開を明らかにする。D)ソi盛時代の無神論政策と新異教主義誕生の関係を明らかにする。E)伝統的な異教の自然観と、都市化した社会でナショナリズムの要訪によって生まれた新異教主義の自然観の泣い、及び近年の自然環境をめぐる状況と宗教実践とのつながりを記述する。以上A)~E)について、時間的な思想、の変化や世代問の差にも注目して論じる。(2)ネットワークの把握ロシア新異教主義諸団体間の関係、他の宗教的マイノリティや自然保護運動、先住少数民族運動、海外の諸団体との退Hj~ を見ていく。これにより、マイノリティである新異教主義者がどこからどのような言説を貸借し、自らの語りに取り入れ、アイデンティティや権利意識を高め、実践につなげているのかを明らかにしたい。

活動内容

◆ 2015年4月より転出

2014年度活動報告

本研究の目的は、ソ連崩壊から20年以上を経た現在のロシア社会における新異教主義運動の位相を民族誌として描き出すものである。欧米の新異教主義運動とも比較しつつ、ポスト社会主義時代に生じたロシア新異教主義の特殊性にせまるために、本年度は以下のような作業を行った:
・新異教主義運動はポスト社会主義時代の急激な現象として注目を集めたため、ロシア語では一定程度の報告があるが、日本ではほとんど知られていない。まずこれまでの研究のレヴュー行うために文献収集を行った。
・ロシア各地に存在する新異教主義団体に関する情報を、インターネットサイトで収集した。それにより、マイノリティ宗教、少数民族運動や自然保護運動との連携状況、および彼らの特異な歴史観が明らかになりつつある。
・ロシア正教会と新異教主義が、相手に対して互いにどのような言説を繰り出しているのかに関して情報収集を行った。その結果、中世から続く異教と教会の戦いの現代的様相が明らかになりつつある。「正教」を名乗る新異教主義団体の存在なども明らかになり、ロシアにとって真の「正しい教え」は何かと問題が両者の中心にあることが浮き彫りになった。
今年度は10月からの半年しかなかったため、成果発表は間にあわなかった。成果は今後、2015年8月に行われるInternational Councilfor Central and East European Studies (ICCEES) IX World Congress 2015などで報告していく予定である。