国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

平成28年度文化資源プロジェクト一覧


調査・収集

アメリカ合衆国において、未だ十分ではないヨーロッパからの移民に関する収集物の充実を目的として、アーミッシュに注目し、パッチワークキルトを中心に生活文化用品を収集した。
インド関連資料、音楽関連資料の充実を図るために、サンディップ・タゴール氏(追手門学院大学名誉教授)所蔵のインド楽器8点を購入した。タゴール氏は音楽家であり、楽器資料は実際に氏が公演などで演奏していたものである。このうち弦楽器シタールは、1907年に制作された歴史的資料であり、タゴール氏の祖父であるP・N・タゴールが愛用した楽器である。他の楽器も、収集当時の最高水準の技術で作られており、民博に所蔵することは歴史的にも意義がある。
2015年12月6日に開催した研究公演「息づく仮面―バリ島の仮面舞踊劇トペンと音楽」の映像記録をもとに、前日に開催したワークショップの映像および吉田ゆか子氏提供の現地映像とあわせて編集をおこない、マルチメディア番組を制作した。
2015年11月22日に開催した研究公演「時を超える南インドの踊り」の映像記録素材を編集し、日本語,英語対応のマルチメディア番組を制作した。全演目のうち歌詞のある6曲に字幕をつけ、踊りの所作と歌詞の関連がわかるようにした。
大阪市および埼玉県桶川市において計4回の映像音響取材を実施し、在日コリアンの音楽家である安静民と李政美の活動記録と関係者へのインタビューを行った。
平成27年度に申請者が実施した日本各地の軽業系民俗芸能である蜘蛛舞・継ぎ獅子・撞舞・囃子曲持・梯子獅子舞に関する映像取材の成果を基に、それぞれの芸能が行われる祭の次第や芸能の上演の様相を現す短編映像番組を製作した。
徳島県三好市祖谷、さらに岐阜県郡上市、同本巣郡界隈の民謡やわらべ歌を対象に、それらの記録と伝承活動に携わる歌手の活動を映像記録した。以上の映像記録を編集し、民謡の継承と創造をテーマにした映像民族誌『めばえる歌-民謡の継承と創造-』を制作した。
平成27年度(2016年1月)に撮影した素材を用いて、研究用番組「ネパール 楽師の村 バトゥレチョールの現在」(91分31秒)を制作した。
本館の文資プロジェクトでこれまでに取材した映像素材を編集し、中国雲南省大理盆地の少数民族、回族に関するビデオテーク番組3本を製作した。①新築祝いと過去を含む回族の出稼ぎ状況、②村の生活、③アラビア書道について、具体的な理解を導く内容である。
昨年度までに確立した、展示記録パノラマ映像として必要な撮影ポイントの設定、及びコンピュータでの効率的な展示場再現が可能な画像の製作方法に習いパノラマムービーを製作した。展示資料の画像や詳細データを効率よく配置することによりWeb上で展示空間を違和感なく閲覧できるコンテンツとなった。

資料管理

本プロジェクトでは、①有形文化資源の保存対策立案:総合的有害生物管理の考えに基づいた生物被害対策、②資料管理のための方法論策定:博物館環境の調査、収蔵庫の狭隘化対策、これら資料管理に関わる基礎研究・開発研究と事業を企画、実施、統括した。
新潟県村上市奥三面歴史交流館収蔵庫、宮城県気仙沼市旧月立中学校の文化財一時収蔵庫について、軽微な改修による効果を生物生息調査、塵埃調査、浮遊菌調査、有機酸等の空気環境調査の観点から検証し、過去4年間の測定結果と比較して、その効果を明らかにした。

情報化

平成27年度中に館内公開し、これに引き続いて平成28年4月に一般公開した「沖守弘インド写真」データベースは全て日本語によるものであった。平成28年度はこれを全て英語化し、英語版としても一般公開した。
本館名誉教授である端信行氏が、1969年から1990年代の初めにかけて、おもにアフリカのカメルーン共和国で調査した際に撮影した民族誌写真6,750コマの整理を行い、総数6,530件のデータベースを構築し、民博のデータベース検索システム上での館内公開ならびに一般公開をした。
大島襄二氏が1967年~1991年にかけてアジアや大洋州などを調査した時の記録写真9,150コマの整理を行い、総数8,842件のデータベースを民博のデータベース検索システムの館内公開セクションにて公開した。さらに、総数7,889件のデータベースを、民博のデータベース検索システムの一般公開セクションにて新たに公開した。

展示

本展示は、蠣崎波響筆「夷酋列像」の実像を明らかにするとともに、この絵画が描かれた18世紀の蝦夷地とその国際性を広く紹介するものである。
本特別展は、国立歴史民俗博物館、東京都江戸東京博物館、長崎歴史文化博物館、名古屋市博物館との巡回展示である。現在、資料借用先と借用契約は締結準備中であり、本館での展示開催のための展示図面の入札の準備、チラシ等のデザイン検討を進めた。
民博の特別展示館において、特別展「見世物大博覧会」を<平成28年9月8日~平成28年11月29日の会期で開催した。展示に合わせて、映画「人間ポンプ 安田里美 浅草木馬亭公演」上映会、「伊勢大神楽の獅子舞と放下芸―伊勢大神楽講社による総舞」公演、民博ゼミナール「軽業の系譜と民俗芸能―特別展「見世物大博覧会」から」、ウィークエンドサロン「魅せるモノ・魅せられるモノ 見世物のおもしろさを巡って」などの催し物を実施した。
特別展示『ビーズ-つなぐ、かざる、みせる-』を開催するための準備をおこなった。展示の基本理念にもとづいて、館外資料を借りるための交渉、館の内外の資料の空間構成および演示手法などを決めて展示を完成した。
本館と学術交流協定を締結している台湾の順益台湾原住民博物館において、2006年より隔年で開催されている学生ポスターコンテストに出品された作品を展示し、台湾の若い世代がとらえる原住民族イメージを紹介するとともに、そうしたイメージが形成される民族誌的背景を本館の来館者が理解できるように館蔵の標本資料、台湾側からの借用資料の展示を行った。
本展示は、オーストラリア先住民のアボリジニ・アートを通じてオーストラリア史を問い直すとともに、オーストラリアにおける先住民社会の過去から現在までの変化を視野に入れつつ、絵画に映像資料を交えて紹介したものである。
企画展「津波を越えて生きる:大槌町の奮闘の記録」を、平成29年1月19日から4月11日まで企画展示場で実施した。これは、①津波は人智を超える、②災害を生き延びるヒント、③共同性を育む文化と未来への胎動の3部からなり、東日本大震災で甚大な被害を受けた大槌町に焦点を当てながら、それを生き抜いた人びとの行動を示すことを目的とした展示である。
大人とは異なる存在としての近代日本における「子ども」の誕生に関する展示会の開催に向けて、民博を初め、各地の博物館や資料館などが所蔵する、玩具を初め、様々な生活用品の調査及び、展示の内容の検討を行った。
「驚異」や「怪異」の表象の展示を通して、人間の好奇心と想像力、自然界・神に対する畏怖の念についての思考を喚起するような展示の構想を練る。具体的には、「人魚」(幻獣)、「犬頭族/犬戎」(異形の民族)、あるいは「彗星」(天変地異)といったテーマを設定し、関連する絵画、書籍、民族資料、映像音響資料を展示する。
2017年に建国150周年を迎えるカナダにおける国家と先住民族の関係の変遷を歴史的に検証し、カナダにおける先住民文化の過去、現状そして未来について儀礼具・生活具やアート作品等のモノ、写真、パネル等を用いて紹介する企画展の準備を実施した。
次世代ユニバーサルミュージアムの実現に必要な自己評価手法を開発し、その活用を進めるとともに、多様な来館者を対象とした展示動線誘導手法の開発作業をおこなった。
今年度は主に可搬型の端末について設計と実証および検討を行った。1)デジタルビューアの実証試験としてMac miniを活用した貸し出し用の端末2台を新たに設計・実装し、香川県立ミュージアムで開催した巡回展「イメージの力」への設置を行った。約2か月の会期中、同システムはトラブルなく安定に稼働することを確認した。2)端末を配送により貸し出すケースを想定し、「みんぱっく」としての展開と、その前提となるタッチパネル付きの一体型PCの導入を検討した。3)デジタルビューアを展示場でのビデオテーク上映用インタフェースとして活用するための課題の検討を行った。
「中央・北アジア展示」及び「アイヌの文化展示」の新構築にともない、みんぱく電子ガイド用コンテンツ(日本語版、英語版、中国語版、韓国語版)を製作し、展示場に番号プレートを設置し来館者へのサービスを開始した。
「日本手話版ももたろう」の装置を開発し、展示場で公開した。各地で使われている手話言語6言語による「ももたろう」の語りを、字幕付き、字幕なしの二種類および、場面ごとに分けて見られるようにした。コンセプトとしては、音声日本語版のももたろうと並列するものになり、内容としてはその役割を果たしているが、既存の装置を使うという制限の中で作成しなくてはならなかったため、映像を見せる展示であるのに装置(画面)が小さい、他の装置がすべてタッチパネルになっている中、この装置のみマウスの仕様になっており座らなければ使いにくい、などの問題点は残った。このことは、音声言語と手話言語が同等であることを示すという、言語展示場全体での目的に反する印象を与える結果となってしまっている。この点については、追って、修正が必要であると考えている。
「世界の言語」装置の修正について、具体的な改修案の検討とプロトタイプの作成を行った。民博の言語チームでデータ整理の方法についての検討をすすめると同時に、大阪工業大学と共同してコンテンツの見せ方を検討した。また、関連領域の業者二社からヒアリングを行った。最終的には、「世界の言語」装置の改修にあたっては、目先の見せ方を変えるのではなく、将来的に言語展示場における他の装置との連動や連携を念頭においたデザインが必要であるという結論に達し、そのための検討期間が必要であること、そのため当初の予定より一年、計画を延長することを決定した。
アルメニアの歴史と文化を、少数ではあるが館内所蔵の標本と外国人研究員として来日中のオルベリアン氏から寄贈されたアルメニア十字架ハチュカルを中心として、写真パネルと解説パネルによって紹介した。

社会連携(研究開発)

本館が所蔵するアイヌの標本資料に対して、安全な保管と後世への確実な伝承を目的に、祈りの儀式(カムイノミ)を行った。併せて国の重要無形民俗文化財であるアイヌ古式舞踊の演舞を、一般公開で実施した。
本館の教育機関向け貸出キット「みんぱっく」に関して、イスラームのニーズが利用者から高いため、イスラームを地域横断的に取り扱ったパックを新たに制作する。平成29年度の制作実施に向け、平成28年度は基本コンセプトと内容を検討し、内容物の収集を行った。