国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

館外での出版物

越境とアイデンティフィケーション――国籍・パスポート・IDカード ★

2012年3月22日刊行

陳天璽、近藤敦、小森宏美、佐々木てる 編著

新曜社
【共同研究成果】

出版物情報

主題・内容

現在、世界中で2億人を超える移民が暮らし、2050年には4億人以上となると言われている。移民がグローバル化し、多様な出身地からなる人々が共存する世界において、複雑化する国家と個人の関係はどうなっていくのか。本書は個人が誰であるか確認する行為、つまり「アイデンティフィケーション」に焦点をあて、その現状認識から未来の眺望を拓く。国家は個人をいかに識別し、逆に個人はどう自己証明するのか。国籍をめぐる法原理の側面、アジア・ヨーロッパ・パレスチナ/イスラエルの人々の実践の側面、パスポートなどモノが語る側面から、越境社会を明らかにする論集。

目次

序論 陳天璽・近藤敦・小森宏美・佐々木てる
第一部 法からのアプローチ:国籍をめぐる法原理とアイデンティフィケーションの変容 編集責任:近藤敦
第1章 国籍とジェンダー─国民の範囲をめぐる考察 森木和美
はじめに
1 どのように「国民」になるか
2 「国際結婚」と国籍移動
3 「国際結婚」にみる子どもの国籍
おわりに
第2章 血統主義と親子関係─最高裁判決を素材にして 館田晶子
はじめに  1 最高裁判例に見る国籍法の理解
2 立法過程における血統主義と親子関係の考え方
3 血統主義の意味
おわりに
第3章 外国人とは誰か? 柳井健一
はじめに
1 外国人の人権という議論枠組
2 新たな枠組を求めて
むすびにかえて
第4章 複数国籍の容認傾向 近藤敦
はじめに  1 国際的な動向と日本の判例・学説の状況
2 反対論と賛成論の根拠の検討
3 複数国籍に対する諸外国の対応
4 日本の国籍選択制度をめぐる国際法上および憲法上の論点
第5章 血と国─中国残留日本人孤児にみる国籍の変遷 佟岩
はじめに  1 出生時の国籍
2 国籍の変遷と錯綜
3 戦時死亡宣告と血統主義
4 日本の戸籍をもつ中国籍者
5 未判明孤児の就籍・永住帰国
まとめにかえて
第二部 人からのアプローチ:公的アイデンティフィケーションは桎梏か? 編集責任:小森宏美
第6章 「掌握」する国家、「ずらす」移民─李大媽のライフ・ストーリーから見た身分証とパスポート 木村自
はじめに
1 李大媽の生い立ちとミャンマーへの移住─交易と戦争
2 李大媽とミャンマー国籍
3 李大媽の生活─ミャンマーの経済・政治・治安
4 ミャンマーからタイへ
5 台湾への移住
6 分析─国家による「掌握」と「掌握されるもの」による「ずらし」
第7章 国境を越える子供たち─タイ・マレーシア国境東部における日常的越境と法的地位 高村加珠恵
はじめに
1 調査対象地
2 日常的越境者に対する法的取り決め
3 華文小学校に越境通学するマレー系ムスリムたち
4 越境通学する華人たち
5 子供たちの越境通学
6 国境空間における日常的越境と法的地位─結びにかえて
第8章 並存するナショナル・アイデンティティ─離散パレスチナ人によるパスポート、通行証の選択的取得をめぐって 錦田愛子
はじめに
1 ヨルダン国籍とパレスチナ人
2 国境を越える道具
3 パレスチナ人のナショナル・アイデンティティと越境をめぐる意識
おわりに
第9章 移動の制度化に見る国の論理、人の論理─エストニアの独立回復とEU加盟過程でのパスポートの意味 小森宏美
はじめに
1 ロシアの旅券からエストニア・パスポートへ、そしてソ連パスポートへ─国民国家の獲得と喪失
2 再国民国家化への道
3 EU加盟と国境管理─脱国民国家化の諸相
むすびにかえて─越境体制の一元化と多様化
第10章 中国朝鮮族と国籍─移動の規制と家族の多国籍化 具知瑛
はじめに
1 移動から問う国家・国籍─近代化からグローバル化へ
2 国民国家の形成期における移動と国籍─流民から国民へ
3 グローバル時代における移動と国籍
4 「朝鮮族」にとって国籍の意味とその活用 まとめにかえて 
第11章 対外関係史と国籍政策の関連性─ポルトガルの事例から 西脇靖洋
はじめに
1 一九世紀の国籍政策
2 権威主義体制期の国籍政策
3 権威主義体制の崩壊と国籍政策
4 国籍政策の欧州化 
5 現在の国籍政策
おわりに
第12章 国籍とアイデンティティのパフォーマティヴィティ─個別引揚者と「中国残留日本人」の語りを事例に 南誠
はじめに
1 国籍・カテゴリー化とアイデンティティ
2 個別引揚者西条正の事例
3 中国残留孤児奥山イク子の事例
おわりに
第13章 社会資本としての国籍とジェンダー─タイ「山地民」女性のグローバル移動から 石井香世子
はじめに
1 国籍をめぐる視座
2 タイの住民管理制度と「山地民」
3 国境を越える「山地民」女性
おわりに─社会資本としての国籍とジェンダー
第三部 モノからのアプローチ:パスポート・IDの歴史とアイデンティフィケーション 編集責任:佐々木てる
第14章 戦前期の旅券─形式の変遷を中心に 柳下宙子
はじめに
1 形式の変遷
2 移民と旅券─変更の最大要因
おわりに
第15章 日本における出入国管理と渡航文書の実務 大西広之
はじめに─出入国審査と渡航文書
1 入管法上の旅券─狭義の旅券
2 入管法上の旅券─旅券に代わる証明書
3 乗員手帳
4 入管実務上認められる渡航文書
5 出入国審査で提示されるその他の文書
おわりに─渡航文書の現在と未来
第16章 揺れ動く「うちなる国境」と渡航文書・パスポート 山上博信
はじめに
1 前史─第二次世界大戦の敗戦に伴う三権分離
2 特別地域とわが国本土の間の旅行(判例に見られる密航事件)
3 日本本土から特別地域に渡航する場合における「身分証明書」制度の誕生
4 身分証明書の効力が争われた事件(重光丸事件・1962年)
5 琉球軍政本部の発給した「パスポート」
6 琉球列島米国民政府(USCAR)の設置と「琉球パスポート」
7 琉球パスポートのあれこれ おわりに
第17章 パスポート以前のパスポート─国内旅券と近代的「監理」システム 佐々木てる
はじめに
1 手形の種類
2 手形の確認と通行システム
3 移動の管理
4 手形の終焉とパスポート
まとめ─ポストナショナルな時代のパスポートとは
第18章 国家と個人をつなぐモノの真相─「無国籍」者のパスポート・身分証をみつめて 陳天璽
はじめに
1 国籍、無国籍、それを証明するパスポート
2 「無国籍」者と複数のパスポート─林氏のケース
3 祖国に帰れない「無国籍」者─丁氏のケース
4 国籍保持者から「無国籍」者へ─李氏のケース
おわりに
あとがき
索引(1)