国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

館外での出版物

<驚異>の文化史―中東とヨーロッパを中心に ★

2015年11月10日刊行

山中由里子 編

名古屋大学出版会
【共同研究成果/科研プロジェクト成果】

出版物情報

主題・内容

アレクサンドロスも遭遇したという怪物から、謎の古代遺跡や女だけの島まで、たえず人々の心を魅了してきた〈驚異〉。旅行記や博物誌が語り、絵画や装飾品に表れるその姿は、人間の飽くなき好奇心を映し出す。

目次

序章 驚異考……………山中由里子
1 驚異とは?
2 驚異と中世一神教世界
3 先行研究
4 比較研究の可能性と問題点
5 ジャンルの問題
6 驚異の定義
7 歴史的展望
第I部 驚異とは何か
第1章 ヨーロッパ中世における驚異……………池上俊一
はじめに
1 中世知識人にとっての驚異
2 分類・定義の試み
3 キリスト教的驚異について
4 驚異の歴史
おわりに
第2章 イスラームにおける奇跡の理論……………二宮文子
はじめに
1 イスラームにおける奇跡の発生原理
2 イスラームにおける奇跡の分類
3 驚異譚・奇跡譚・歴史叙述―中世南アジアの事例から
おわりに
第II部 驚異の編纂と視覚化
第1章 中世イスラーム世界の旅行記と驚異譚―驚異を目にした人々……………亀谷学
はじめに
1 イスラーム世界における旅と旅行記
2 旅と驚異
3 ガルナーティーの旅と驚異
4 旅行記と驚異譚の書
むすびにかえて
第2章 天上・地上の驚異を編纂する―ペルシア語百科全書成立の12世紀……………守川知子
はじめに
1 トゥースィーの 『被造物の驚異と万物の珍奇』
2 諸学を編纂する
3 12世紀の思想潮流の中で
おわりに
第3章 ヨーロッパ中世の東方旅行記と驚異……………大沼由布
はじめに
1 驚異の目撃譚としての旅行記
2 旅行記という枠組みが与える他の条件
3 信憑性を持たせるための記述上の工夫
おわりに
第4章 ヨーロッパ中世の奇譚集……………黒川正剛
はじめに
1 古代から中世へ―奇譚集の誕生
2 『皇帝の閑暇』 における奇譚
3 『アイルランド地誌』 における奇譚
4 三大百科全書と奇譚 おわりに
第5章 コプト聖人伝に見られる驚異な奇跡譚……………辻明日香
はじめに
1 もう一つのキリスト教世界における奇跡譚の編纂
2 「驚異」 としての奇跡譚
おわりに
第6章 中東イスラーム世界の写本絵画と驚異……………林則仁
はじめに
1 中東イスラーム世界における写本絵画の伝統と 『被造物の驚異』
2 カズウィーニーの 『被造物の驚異』
3 驚異の視覚的描写から見る世界観
4 視覚化によって高められる信憑性
5 『被造物の驚異』 写本絵画と他の書物
おわりに
第7章 イスラーム美術に表された驚異の動物……………小林一枝
はじめに
1 初期の動物表現、実在する動物と空想動物
2 聖獣もしくは瑞獣としての空想動物
おわりに
第8章 ヨーロッパ中世写本の挿絵に見る驚異……………松田隆美
1 驚異の視覚化と挿絵
2 死後世界への旅と驚異
3 典礼書の余白に描かれた驚異
4 装飾モチーフ化される驚異
第9章 ロマネスク床モザイクに見る驚異―オトラント大聖堂の分類不能な怪物たち……………金沢百枝
はじめに
1 謎を読み解く試みの数々
2 オトラント大聖堂の床モザイク
3 偉人の驚異譚
4 分類不能な怪物たち
おわりに
第III部 驚異のトポス
第1章 ヨーロッパ中世の驚異譚における空間 (トポス) と時間 (クロノス)…………池上俊一
はじめに
1 驚異の空間
2 驚異の時間
3 古代形象の例―魔術師ウェルギリウス
おわりに
第2章 東方の驚異―ヨーロッパにおける巨大蟻の記述の変遷……………大沼由布
はじめに―東方の驚異と古代からの知識の継承
1 ギリシア・ローマ時代の巨大蟻の記述
2 ヨーロッパ中世における巨大蟻の記述
おわりに
第3章 動く島の秘密―巨魚伝説の東西伝播……………杉田英明
1 中東世界
2 西方伝承
3 東方伝承
4 日本への伝来
第4章 想像の地理と周縁の民族―女人族伝承の東西伝播……………山中由里子
1 驚異の民族
2 アマゾン伝承の起源
3 中世イスラーム世界に伝わったアマゾン伝承
4 女人族とアレクサンドロスの出会い
5 船乗り譚や旅行記における女人族伝承
第5章 驚異としての北方―イブン・ファドラーンの記録を中心に……………家島彦一
はじめに
1 イブン・ファドラーンの旅
2 驚異の源泉としての北方ユーラシア世界
むすびにかえて―驚異譚の定型化と知識の伝承
第6章 驚異としてのアフリカ大陸―中世アラビア語地理文献に見えるザンジュ地方……………鈴木英明
はじめに
1 行政官たちの地理書・バルヒー学派
2 渡航者たちによる著作
3 島嶼部の登場と混同
4 陸と海との傾向の分化、驚異の行方
おわりに
第7章 ピラミッドという驚異……………亀谷学
はじめに
1 ピラミッドの驚異性
2 ピラミッドへのアプローチ
3 中世イスラーム世界のピラミッド学の集大成
むすびにかえて
第8章 ペルセポリスとイスラーム世界の 「七不思議」……………守川知子
はじめに
1 イスラーム世界の 「七不思議」 にみる 「驚異の建造物」
2 「スライマーンのモスク」 としてのペルセポリス
3 「ジャムシードの玉座」
おわりに
第9章 ストーン・ヘンジと驚異の国土……………見市雅俊
1 中世編―先住権のあかし
2 近世編―ローマ化のあかし
おわりに
10章 月から見える万里の長城……………武田雅哉
1 長城という驚異
2 「月から見える長城」 の誕生
3 だれかが見た長城
4 火星人も長城を見ている?
5 「月の男」 の変貌
第IV 驚異の転生
第1章 ヨーロッパ近世の驚異―怪物と魔女……………黒川正剛
はじめに
1 ヨーロッパ近世における驚異・怪物の増殖
2 驚異と自然
3 魔女言説における驚異・奇跡・魔術と自然
おわりに
第2章 驚異の部屋 「ヴンダーカンマー」 の時代……………小宮正安
はじめに
1 ストゥディオーロからヴンダーカンマーへ
2 「術」 の満てる空間
3 「驚異」 のディスプレイ方法
4 「異形」 をめぐるコレクション
5 30年戦争前後のヴンダーカンマー
6 ヴンダーカンマーの変容と終焉
おわりに
第3章 自然誌と博物館―近世イギリスの驚異の行方……………見市雅俊
はじめに―驚異の時代
1 「驚異」 と 「好奇心」
2 トラデスカント・コレクションとアシュモリアン博物館
3 プロット自然誌
4 化石―自然の造形力
5 驚異の文化の終焉
第4章 「驚異の地インド」 の内在化……………小倉智史
はじめに
1 ムスリム宮廷におけるサンスクリット文献の翻訳活動
2 『アクバル会典』 におけるインドの思想と習俗
3 地続きになる遠い過去―『カシミール史』 のイスラーム前史
おわりに
第5章 イスタンブルの民衆と奇物―驚異から日常の中の異常へ……………宮下遼
1 オスマン朝における驚異の記録
2 帝都イスタンブルの奇物
3 「異教の気配」 としての帝都の歴史的重層性
4 驚異の日常化
第6章 歴史的パレスチナにおける奇跡譚の今―驚異を目にした人々聖者ハディル崇敬の事例……………菅瀬晶子
はじめに
1 聖者ハディルとは
2 現代の歴史的パレスチナにおけるハディル像
3 ハディル崇敬の特徴と奇跡譚
4 ハディル崇敬の場所とその霊験
5 ハディルの奇跡譚
6 奇跡と霊験のあいだ