国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

客員研究員の紹介

ヘンドリクス・ヴィンケンさん
Hendriks Vinken

紹介者:出口正之(文化資源研究センター教授)
変貌しつつある日本の若者世代と市民社会を捉える

ヘンドリクス・ヴィンケンさんは1962年にオランダで生まれた。20世紀から21世紀にうつるターニングポイントに生をうけたことが彼にとって大きな財産になっているという。彼は労働運動や市民運動には強い関心をよせており、市民活動家に知り合いも多い。

オランダは社会福祉が充実している半面税金が高く、彼の収入の半分は税金にもっていかれてしまうという。だが、「それでもいっこうにかまわない」と彼は思っている。「それで社会福祉が充実して老後安心して生活できるのならホームレスをたくさんつくりだすよりよほどいい」という見解はオランダの人々がよせている社会主義的福祉政策への信頼だろう。

彼の専門は比較文化論だが、学歴からしてかなり多岐にわたっている。ユトレヒト大学で文化人類学をまなんだが、次に エラスムスロッテルダム大学に移って社会学をまなんだ。そしてトゥルバーグ大学大学院にすすみ、社会学修士、博士号を取得した。文化人類学や比較社会学、比較政治学などは彼の中では融合している分野ととらえられており、文化人類学的なインタビューの手法を多く用いて調査をおこなっている。日本には2004年から6年にわたり、16ヶ月滞在しており関西も関東も滞在の経験がある。

これまで編集、単独執筆した本は120を越え、それをはるかに上回る量の論文や記事を寄稿している。その精力的な文筆活動は広いネットワークに支えられている。彼の興味は社会学、政治学、労働問題、比較文化論と広く、Pyrrhula BVtという比較文化、世代研究を手がける会社をみずから設立し、ヨーロッパの自治体などからの調査依頼などもてがけている。

今回民博では我々が主催している共同研究「ポストモダニズム時代における市民参加とグローバリズム:日本そしてアジア」における主要研究者であり、編集主幹として参加する。来日前から、インターネット上で研究会に参画し、「Civil Engagement and Globalism in Japan」(仮題)を2008年度中に刊行をめざしている。インターネットを通した新しい研究会モデルの国際的なキーパーソンとして欠かせない存在だ。

http://www.gesis.org/en/research/eccs/index.htm
この充実したホームページを是非見ていただきたい。

日本への関心

彼の日本好きはつとに知られており、演歌、ポップスなども好んで分析の素材にしている。今回の来日では日本の若者世代・団塊世代のボランタリズム〔市民社会運動〕関心度について、聞き取り調査を中心とした比較研究をおこないたいと意気込んでいる。特に欧米社会と比較した政治的消費行動面〔ボイコット、不買運動など〕における比較に焦点をあて、内外の研究者と協力して英語による成果の出版を2008年中におこないたいという。「ヨーロッパでも若者たちは変化している。インターネットによって結ばれるグローバリズムのなかでいままでとは違った市民参加の仕方があらわれてきつつある。日本でも同様だ」と研究に意欲を燃やしている。

また、彼の日本への関心のひとつに食文化への興味があげられる。オランダ人はヨーロッパ一背が高い国民として知られているが、彼もまた非常に背が高い。オランダ人が背が高いのは一説には、遺伝的なもののほかに、ジャンクフードを食べず、質素だが栄養バランスがとれた食事をしているからだといわれている。ヘンクさんにしても、主食にしているのはマルチグレインのパンやクラッカー、各種チーズ、果物、野菜などで、これで3食続けてもいっこうにかまわないという。にもかかわらず、バラエティのある日本食が大好きで、特にすしをはじめとする魚料理や麺類、ご飯類には目がない。「日本語が分からないが、それでも日本で日本人に囲まれて暮らすとヨーロッパよりずっとリラックスして快適に感じる。」という。「ぜひ日本で暮らしたい」という念願かなっての再来日で、大いにはりきっている。

今回は妻で社会学者で若者文化研究者のイザベルさんと一緒だが、実は彼女はベジタリアンで化学調味料なども体質的に受けつけない。一緒にいてもヘンクさんは魚を食べるが奥さんは食べないという。それでは不便ではないか。 「別に。」と彼はいう。ヨーロッパにはベジタリアンが多くなってきているので、「それなりに」やっていけるのだという。確かに日本にもマクロビオティックや精進料理といったベジタリアンの伝統がある。だからおいしい料理をたべたいと期待しているのだそうだ。以下はヴィンケン夫婦からのメッセージである。

「みなさんでおいしいオーガニックのベジタリアンレストランを一緒に探検しませんか。」
ちなみに、健康志向の強い彼ら夫婦は喫煙が大好きで、ワインといっしょにのむ食後の一服はこたえられないという。オーガニックな精進料理を食べてワインを飲み、タバコを一服いかがですか、ということらしい。個性的な発想からの研究成果が今から楽しみだ。

ヘンドリクス・ヴィンケン Kridz Ikwuemesi
  • ヘンドリクス・ヴィンケン
  • トゥルバーグ・ユトレヒト大学労働研究所上席研究員。
  • 2007年11月から国立民族学博物館外国人研究員(客員)教授。。
  • 研究テーマは、日本とアジアにおける若者・団塊世代がつくりだす社会変容としてのボランタリズムの形態比較。