国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

「コラム」:機内食 機内食の日本食 ─ 伝統とグローバル化 ─

八巻惠子

「きつねらあーめん」という名の機内食スナックを出す航空会社がある。あげの乗ったうどんだしスープにラーメンの麺。これにチーズとクラッカー、フルーツが添えられる。これを海外出張の楽しみにしているという日本人乗客もいる。日本語表記だから日本料理のアレンジかと思いきや、英語表記でChinese Noodles。中国人は果たしてこれを中華料理と認めるだろうか。

機内食の歴史はサンドウィッチに始まり、西洋料理のフルコースが基本形だ。そして今や日本食の機内食は珍しいものではない。これは日本人乗客の強い要望の歴史の結果でもあるし、海外にも日本食ファンが多いということだろう。しかし日本を離発着する60以上の航空会社の機内には様々な人種、宗教、言語、年代の人々がいて、日本食など食べたことがない、日本食が嫌いで食べられないという乗客も大勢いる。機内食は誰もがおいしく感じられ、全部楽しく食べられるものでなくてはならない。

世界中からやってくる乗客が求める食文化の絶妙なバランスは、航空会社にとっては永遠の模索だろう。その妥協の産物とも言えるような機内食の日本食は、時に和洋折衷であったり、日本人にはなじみのない献立の組み合わせであったり、味付けやスパイスに違和感を持つこともあるようだ。

すし酢もわさびも抜いた、かにかまぼこだけの巻きずしと、ヨーロッパの田舎料理や中華料理と洋菓子の組み合わせ、白いご飯とパンが付いてくる食事を指して「フュージョン料理」と呼び、多国籍料理が商品なのだとする航空会社もある。

ファーストクラスやビジネスクラスでは、有名ホテルのシェフらが作る色とりどりの本格的な高級懐石料理が出される。大吟醸の日本酒も飲めるし、竹の葉に包まれたふっくらした白いご飯も食べられる。正真正銘の「本物の日本料理」は、機内では一品一品ワゴンで運ばれる西洋スタイルのサービスで提供される。国際移動に慣れた乗客は、洋食のコースの途中で、すしやそばが食べたいと自ら和洋折衷にしてしまい、食の多文化混在にあまり抵抗も示さない。

日本茶は一部の外国人には渋みや味が強すぎて、微量のハーブを加えたまろやかなオリジナル日本茶を出す航空会社もある。乗務員はさらにレモンスライスやりんごジュースを混ぜて、オリジナルドリンクを楽しんでいる。越境空間ならではのプロセスは、機内食という独特の食文化を創造していくようだ。


[ 出典詳細]
HP名:機内食・ドットコム~機上の晩餐 http://www.kinaishoku.com/

HP名:「BEST BREAKS」 http://members.at.infoseek.co.jp/ChanKen/
 作成者:清水 健太郎

HP名:TRAVEL JUNCTION http://www5a.biglobe.ne.jp/~kirita/
 提供:ルフトハンザドイツ航空


路線別機内食メニュー
[写真1]
[東アジア路線]
カツサンド、れんこん煮物、昆布巻き、フルーツ、団子
[写真2]
[東アジア路線]
パスタ、サラダ、れんこん煮物、いなりすし、フルーツ、ぶどうぱん
[写真3]
[東アジア路線]
チキンと野菜の煮物、ごはん、マカロニサラダ、巻きずし、クリームケーキ
[写真4]
[東南アジア路線]
ビーフと野菜、ごはん、そば、サラダ、パンとクラッカー
(写真:清水)
[写真5]
[ヨーロッパ路線]
中華風焼きそば、ハムスライス、巻きずしとにぎり、フルーツ、パン
(写真:清水)
[写真6]
[東南アジア路線]
本格的な日本食(搭乗前の予約制)
(写真:清水)
[写真7]
[北米路線]
シーフードカレーライス、サラダ、巻きずしといなり寿司、ケーキ、パン
(写真:清水)
[写真8]
[南半球路線]
前菜のすし盛り合わせ、ガーリックトースト、漬け物、白ワイン
(写真:清水)
[写真9]
[東南アジア路線]
ワッフル、ソーセージ、サラダ、そば、フルーツ
(写真:谷口)
[写真10]
[東南アジア路線]
クリームシチュー、ごはん、いなり寿司とかんぴょう巻き、そうめん、トマトスライス、フルーツゼリー
(写真:谷口)
[写真11]
[ヨーロッパ路線]
本格的な日本食
(写真:LH)
[写真12]
[北欧路線]
前菜盛り合わせ(洋食)、茶そば、ピクルス盛り合わせ
(写真提供:フィンランド航空)
[写真13]
[北欧路線]
パプリカ入りカレーライス、そば、パン、フルーツ、箸袋の裏に箸の使い方の表示
(写真提供:フィンランド航空)
[写真14]
[東南アジア路線]
洋食フルコースの前菜とメインコースの間に日本そばをとる乗客のテーブル