国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

異界とつながる音

(2)河童襲撃アラート  2018年2月8日刊行

山中由里子(国立民族学博物館准教授)


ヨッカブイ祭の鐘。古老たちが軽快なリズムを叩き出す=鹿児島県南さつま市金峰町で2017年8月22日、筆者撮影

カンカンカンコン、カンコンコン、カンココ、カンココ、カンコンコン。耳をつんざくような金属音が集落中に響く。この鐘の音が遠くから聞こえてきただけで、保育園の庭の園児たちは保母さんにしがみつき、半泣きになる。鐘声が近づくにつれ、ヒョーヒョーという甲高い奇声が混じり、パニックは増大。目鼻口の無い、とんがり頭の「ガラッパ」が走り寄る姿がついに目視されると、園庭はもはや阿鼻叫喚の巷と化す。

鹿児島県南さつま市金峰町高橋で夏に開かれるヨッカブイ祭の一場面である。ガラッパとは河童のことで、古い夜着をまとい(ヨッカブイという名は「夜着被り」から)、シュロの皮の仮面をかぶった若い衆が演じる。この祭の異形については国立民族学博物館の笹原亮二教授が昨年6月15日の本欄に書いたので、ここでは「異音」に注目しよう。

この世ならざるものが発するヒョーヒョーも気味悪いが、集落のご年配の方々は、ガラッパの登場に伴う鐘の音を聞くと、子どもの頃にガラッパにどこまでも追いかけられた記憶が蘇り、いまだに背筋がゾクッとする、と口々にいう。

底を切ったガスボンベを二本、竹竿に吊るしただけの、野趣にあふれるこの「楽器」のリズムが、体に刷り込まれた緊迫感を呼び覚ます。Jアラート(全国瞬時警報システム)よりもよほど効果がありそうだ。

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