国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

感性と制度のつながり――芸術をめぐる「喚起」と「評価」のプロセスから考える

研究期間:2019.10-2022.3 代表者 緒方しらべ

研究プロジェクト一覧

キーワード

感性、制度、喚起

目的

本共同研究は、制作や展示といった芸術実践において、モノゴトや制度などの非人間を含めた諸存在の働きにおける「喚起」と「評価」のあり方に注目し、感性と制度の不可分なありさまを検討していく。
芸術の人類学では1980年代後半から、美や芸術の普遍性を前提とすることが孕む権力性に基づき、地域の実践とグローバルな制度の関係が問題にされてきた。他方で、1990年代末以降は物質文化研究やエージェンシー論が隆盛し、人やモノゴトの働きの連鎖や相互生成のありさまが提示されてきている。しかし、後者で注目を浴びた「喚起」や「魅惑」と、前者で問題になっていた制度や審美的判断がどのように結びついているのかは、十分に検討されてこなかった。
そこで本共同研究は、世界各地の絵画や生活造形、音楽、古今東西の景観、パフォーマンスなどを含む芸術実践における「喚起」と「評価」の多様なあり方を明らかにしながら、感性と制度的領域が不可分に結びつくさまを検討していく。

2020年度

2020年度は、第2回から第4回まで、合計3回の共同研究会を開催する。初年度に検討した先行研究、議論したキーワードの概念や使用、問題の所在に基づき、個人発表と全体討論を行っていく。第2回は、緒方がナイジェリアの地方都市におけるアートの事例を発表するのに加え、第1回の全体討論で時間制限のため議論し尽せなかった点についても、継続して議論を行う。第3回は、兼松が新潟のアートプロジェクトを事例に、光本が弥生時代・古墳時代の造形物と身体表現を事例に、登が合衆国とポーランドのソーシャリーエンゲージド・アートを事例に個人発表を、第4回は、寺村が国内の前方後円墳やイランの石板およびそれらのデータ処理・分析を事例に、田中がキューバのクラシック音楽を事例に、個人発表を行う予定である。また、第4回では特別講師を招聘し、本研究の理論について重点的にコメントをいただき、全体討論を行う予定である。

【館内研究員】 寺村裕史
【館外研究員】 兼松芽永、竹久侑、田中理恵子、登久希子、橋本梓、長谷川新、光本順、渡辺文

2019年度

初年度に第1回を開催し、代表者による趣旨説明と、人類学における生成論、制度論、芸術の人類学の先行研究の検討を行い、メンバー間で問題の所在を確認し合う。

【館内研究員】 寺村裕史
【館外研究員】 兼松芽永、竹久侑、田中理恵子、登久希子、橋本梓、長谷川新、光本順、渡辺文
研究会
2019年12月15日(日)13:30~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
緒方しらべ(大阪大学)「研究会全体の趣旨説明」
共同研究員全員「自己紹介と本研究の展望」
緒方しらべ(大阪大学)、兼松芽永(女子美術大学)「本研究に関わる人類学の先行研究概要」
寺村裕史(国立民族学博物館)「本研究に関わる考古学の先行研究概要」
長谷川新(インディペンデントキュレーター)「本研究に関わる芸術学の先行研究概要」
共同研究員全員「先行研究を踏まえ、問題の所在や研究方針についての全体討論」
研究成果

初度に開催した研究会(1回)では、まず、人類学、芸術学、考古学の3分野における、本研究テーマに関わる先行研究とキーワードの確認と議論を行った。その結果、主に3点について明確にすることができた。1)「感覚」については、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という五感だけではなく、それらが複数あわさった多感覚的経験をも視野に入れる。また、個々の感覚と、社会的に共有されたものの差異にも注目する。2)「制度」については、アートワールドというグローバルな制度に加え、法や規範、政治や経済、教育などの諸制度や、各フィールドでの制度化された慣習や暗黙の了解なども含め、広義に捉える。3)「美」については、「美しいか」と「喚起されるか/魅惑されるか」を相互に置き換えて考察することで、美をめぐる制度的領域と感性的領域の結びつきを検証していく。 このように、次年度から個人発表を進めていくにあたっての重要な概念と理論について議論することができた。