国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

チベット文化圏東部の未記述言語の解明と地理言語学的研究(2017-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(A) 代表者 鈴木博之

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、チベット文化圏東部の3つの地域区画(中国チベット自治区東端、四川省甘孜州中部、同州北端)において、チベット人によって話される未記述のチベット語諸方言及び非チベット語諸方言の基礎語彙・基礎文例の記録を目的とする現地調査を可能な限り多く行い、得られたデータを地理言語学的手法で分析することを通じて言語分布をより詳細に把握するとともに、諸言語間の言語特徴の異同について明らかにしたうえで、当該地域の文化的・社会的上位言語であるチベット系諸言語が他の少数言語に与えた影響およびその歴史的過程を解明することである。

活動内容

2020年度実施計画

今年度が本研究課題の最終年度に当たるため、補充調査と成果発表を中心に計画する。
成果発表に向けた準備として、前年度までに収集した資料を言語地図上に総合することから始める。その過程で、補充調査が必要な点を明らかにする。必要となった補充調査は、海外の研究協力者を調査地域に派遣して行う計画である。
以上、成果発表に必要な資料がそろい次第、論文全体の執筆に取りかかる。本年度下半期に予定される国際学会での発表を計画する。そこでのフィードバックも考慮に入れて論文を完成させ、国際誌に投稿する。

2019年度活動報告

本研究は大きく1)現地調査、2)データ整理・解釈、3)成果発表の3種に分かれる。
1)については、研究代表者自身について、中国四川省を中心にフィールドワークを行い、同地域で話されるチベット系諸言語の語彙データ(最大2000語)、構文データ(最大200文)を収集した。これには、カムチベット語およびアムドチベット語が含まれる。次に、研究協力者2名をチベット自治区チャムド市に派遣し、チャムド市内に分布域のある未記述言語の計8種類の変種(方言)について、それぞれの社会言語学的情報と語彙資料(最大2000語)を収集した。この調査においては、チベット系未記述言語の記述も含み、未記述言語との関連を考えるうえで重要になる資料を収集した。記述した言語には、ラモ語(ドンバ方言およびラメ方言)とカムチベット語が含まれる。
2)については、まず収集した語彙資料の電子化し、検索可能なデータベースとした。同時に、収集したデータの地点をGoogle Mapsを用いて緯度経度情報を取得し、言語地図作成のためのオンラインソフトArcGIS onlineで扱える形式にまとめた。また、チャムド市内の未記述言語のデータについて、語彙形式の比較を行い、チベット系諸言語からの借用語を判別し、抽出できた本来語と考えられる語彙に音韻対応が認められるかについて分析した。
3)については、各種国際学会で11件の口頭発表を行った。今年度に本研究課題にかかわる論文が8件公開または受理された。加えて、編著を1冊出版した。

2018年度活動報告

本研究は大きく1)現地調査、2)データ整理・解釈、3)成果発表の3種に分かれる。
1)については、研究代表者自身について、中国四川省理塘県においてフィールドワークを行い、同地域で話されるチベット系諸言語の語彙データ(最大2000語)、構文データ(最大500文)を収集した。これには、カムチベット語、アムドチベット語、チョユ語が含まれる。次に、研究協力者2名をチベット自治区チャムド市に派遣し、チャムド市内に分布域のある未記述言語の計10種類の変種(方言)について、それぞれの社会言語学的情報と語彙資料(最大2000語)を収集した。この調査においては、チベット系未記述言語の記述も含み、未記述言語との関連を考えるうえで重要になる資料を収集した。記述した言語には、ラロン・マ語とカムチベット語が含まれる。
2)については、まず収集した語彙資料の電子化し、検索可能なデータベースとした。同時に、収集したデータの地点をGoogle Mapsを用いて緯度経度情報を取得し、言語地図作成のためのオンラインソフトArcGIS onlineで扱える形式にまとめた。また、チャムド市内の未記述言語のデータについて、語彙形式の比較を行い、チベット系諸言語からの借用語を判別し、抽出できた本来語と考えられる語彙に音韻対応が認められるかについて分析した。
3)については、各種国際学会で9件の口頭発表を行い、また中国を中心にチベット地域における地理言語学についての招待講演を8件行った。今年度は、本研究課題にかかわる論文が25件公開または受理された。加えて、単著を1冊出版した。

2017年度活動報告

本研究は大きく1)現地調査、2)データ整理・解釈、3)成果発表の3種に分かれる。
1)については、研究代表者自身について、フランスにおける言語資料収集、中国四川省理塘県におけるフィールドワークの2点を行い、前者においてチベット自治区Basum(巴松)語の言語データ(約600語)を整理し、後者において24地点につき語彙(最大2000語)・文例(最大200文)を収集した。これには、カムチベット語、アムドチベット語、チョユ語が含まれる。次に、研究協力者3名をそれぞれチベット自治区チャムド市、ベルギー・ブリュッセルに派遣し、チャムド市内に分布域のある未記述言語の計12種類の変種(方言)について、それぞれの社会言語学的情報と語彙資料(最大2000語)を収集した。これらの調査の過程で、チャムド市およびその近隣地区にさらに未記述言語が存在するという情報を得た。
2)については、まず収集した語彙資料の電子化し、検索可能なデータベースとした。同時に、収集したデータの地点をGoogle Mapsを用いて緯度経度情報を取得し、言語地図作成のためのオンラインソフトArcGIS onlineで扱える形式にまとめた。また、チャムド市内の未記述言語のデータについて、語彙形式の比較を行い、チベット系諸言語からの借用語を判別し、抽出できた本来語と考えられる語彙に音韻対応が認められるかについて分析した。その結果、これらは少なくとも3つの言語に分けられ、それぞれをラモ語、ラロン・マ語、タヤ・マ語と名づけた。
3)については、未記述言語の1つラモ語について、国際シナチベット言語学会(北京)で発表を行い、社会言語学および言語分布に重点を置いた論文を執筆し、国際誌に投稿した。