国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

触察の方法論の体系化と視覚障害者の野外空間のイメージ形成に関する研究(2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 広瀬浩二郎

研究プロジェクト一覧

目的・内容

多分野で障害者に対する「合理的配慮」のあり方の議論が始まり,障害者と健常者がともに楽しみや価値を享受できる機会の確保が求められている。とくに,視覚障害者にとっては“触る”は外界把握の方法として重要であり,触るとは何か,どのように触ると効果的なのか,触察後の延長線上にどのような空間のイメージが形成されるか,こうした問いに答える研究が必要である。本研究では,①モノの形状,大きさ,素材の質感が視覚障害者の印象,意識に及ぼす影響を通時的に明らかにし,触察の方法論を体系的に整理すること,②体系化された触察の方法論を野外に適用し,語りを交えて空間イメージの形成について検討,考察すること,の2点を目的とする。方法としては,屋内外におけるワークショップと研究会を開催し,視覚障害者と晴眼者の両者の行動記録,意識との関係性分析を行う。また,1年という時間軸でモノや空間のイメージの持続性についても検討する。

活動内容

2020年度実施計画

20年9月~12月に国立民族学博物館の特別展「ユニバーサル・ミュージアム-さわる!“触”の大博覧会」が開催される予定だった。しかし、この特別展はコロナ禍により21年秋に延期されることになった。20年度は本プロジェクトの最終年度でもあり、特別展と連動する形で、さまざまなワークショップ、研究集会を実施する計画を立てていた。特別展との連携が難しくなったため、今年度中にプロジェクトが完結できるように、複数のワークショップ実施と研究発表のための出張を計画したい。
コロナ禍により、ワークショップの実施は年度後半になると思われる。過去2年間、信楽でワークショップを行なってきたので、3年間の研究活動を総括するような野外(まちあるき)ワークショップを実施したい。また、プロジェクトの成果については、年度後半に海外(米国または英国)の学会、研究集会での報告を予定している。

2019年度活動報告

2019年7月に滋賀県・信楽において「射真」ワークショップを実施した。「射真」とは、視覚以外の感覚を用いて体験を記録する手法であり、今回は粘土による型取り(フロッタージュ)で作品制作に取り組んだ。午前中にまちあるきを行い、その印象を元に午後に「射真」作品を制作した。参加者は40名余で、そのうち7名が視覚障害者である。今回も、視覚障害者の触察シーンを中心に、まちあるきの様子をビデオ撮影した。
本ワークショップの内容、成果については、19年11月に開催された国立民族学博物館の公開シンポジウム「日本におけるユニバーサル・ミュージアムの現状と課題」で、研究分担者の山本が報告した。また、ワークショップ参加者が制作した「射真」作品は、21年秋に開催される国立民族学博物館の特別展「ユニバーサル・ミュージアム」において展示する予定である。特別展の図録でも、このワークショップの概要を紹介する準備を進めている。
20年3月には、東京・人形町周辺でまちあるきワークショップを実施した。参加者は30名余で、視覚障害者の参加は6名だった。東京では粘土ではなく、紙を用いるフロッタージュに挑戦した。まちあるきワークショップは、視覚障害者の空間イメージの形成、および触察行動を分析する本プロジェクトの研究を進める上で、きわめて有効な手段である。20年度も引き続き、まちあるきと作品制作を組み合わせるワークショップを企画・実施したい。
20年3月には、上記二つのワークショップの成果を踏まえ、研究代表者の廣瀬が米国のミシガン大学、ミシガン州立大学において研究発表した。視覚障害教育の専門家、および博物館学関係の研究者・学生と交流できたのは、プロジェクトの最終年度に向けて刺激となった。

2018年度活動報告

1.2018年7月に信楽(滋賀県)の「陶芸の森」にて美術作品の鑑賞・制作に関するワークショップを実施した。
2.このワークショップの際、視覚障害のある参加者の触察行動をビデオ撮影し、インタビュー調査も行なった。
3.2019年3月に開催された国立民族学博物館の共同研究プロジェクト「『障害』概念の再検討」の研究会(於江戸東京博物館)にて、上記ワークショップの成果と今後の課題を整理し、研究分担者の山本が報告した。