国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

オセアニアの人類移住と島嶼間ネットワークに関わる考古学的研究(2018-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) 代表者 小野林太郎

研究プロジェクト一覧

活動内容

2020年度実施計画(今後の研究の推進方策)

2020年度もポンペイ島での発掘調査を継続的に実施する予定である。具体的には2019年度の拡張により特定できた良好な文化層の残るエリアの重点的な発掘を計画している。またレンゲル島以外の離島域における新たな遺跡の発見を目的とした踏査も開始予定である。一方、2020年2月以降、世界的に蔓延したコロナウィルスによる影響は、調査地であるポンペイ島やミクロネシアにおいても大きく、現在に至るまでミクロネシアへの渡航や現地での調査実施は極めて厳しい状況にある。2019年度までは8月を中心とする夏季における発掘の実施を基本としてきたが、2020年度における発掘時期はより柔軟に対応する予定である。また発掘が実施出来ない場合においても、これまで出土している土器や貝製品といった重要な遺物の総合的な分析を進め、その成果を論文化していく計画である。

2019年度活動報告(研究実績の概要)

本研究では、これまでオセアニアへと拡散した人類による島嶼間移住やネットワークに関わる考古学的証拠の発見を目的とし、主に東ミクロネシアにおける人類移住の拠点と考えられてきたポンペイ島での初期居住遺跡の発掘調査を、現地の研究機関およびオセアニア考古学をリードしてきたアメリカやニュージーランドの諸大学との国際共同研究として実施してきた。このうち2019年度の成果としては、まず2019年8月から9月にかけてポンペイ島の離島となるレンゲル島での発掘調査の実施があげられる。2018年度に実施した発掘の継続調査となる2019年度の発掘では、移住初期と推定される約2000年前の年代値が複数得られた下層の白砂層をターゲットとした。
一方、太平洋戦争時に日本軍の拠点となり、アメリカによる空爆も受けたレンゲル島は、島内各地の上層が撹乱を受けており、その影響が少ないエリアの特定が必要となった。このため、昨年度のトレンチを基点にその周囲に拡張する形で複数の試掘坑(テストピット)を開けた。その結果、下層の白砂層が撹乱の影響を全く受けていない地点を特定でき、またこのエリアでは白砂層から多数の赤色土器や貝類遺存体、炭化物の出土を確認できた。出土した赤色土器は、ミクロネシアにおいて初期移住期に各地で確認されているCST土器と呼ばれる白砂が混和材として土器中に含まれるもので、初期における物質文化として知られるものである。しかし、非常に脆い性質があり、形態が把握できる程度に一括で発見されることは稀である。ポンペイにおいてもこうした発見はまだほとんどなく、今回の発見によりその形態復元も含めた移住初期における土器の特徴や利用に関する研究を進めることが可能となった。
このほか、発掘成果を現地の青少年を対象に紹介する展示会の実施や成果の一部を国際学会にて発表したことも2019年度の成果である。

2019年度活動報告(現在までの進捗状況)

ミクロネシアの離島域における発掘でCST土器に代表されるような、初期居住期の物質文化を多数発見できることは稀であり、2018年度より開始した調査ですでに初期移住期と推測される文化層や豊富な考古遺物を発見できたことは、極めて重要である。加えて炭化物や貝類の出土も多く、炭素年代測定に基づく詳細な遺跡の形成年代の把握も進んでいる。また考古データの分析も共同研究として進んでおり、海外研究者との国際的な共同研究としても発展している点は強調できる。またこれらの成果の一部は、ニューギニアのポートモレスビー市で開催された国際学会で発表したほか、ポンペイ島における展示会の実施による現地社会への成果還元も昨年度同様に継続的に実施することができた。以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展していると評価する次第である。