国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

北米アラスカ・北西海岸地域における先住民文化の生成と現状、未来に関する比較研究 (2019-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 岸上伸啓

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、北米のアラスカ地域および北西海岸地域の各地においてかつて狩猟採集民であった民族諸集団が先住民としてどのような文化を生成し、それらがどのように変化し、現在に至り、さらにどのように変化していくのかについて諸文化における変化の差異と類似性に着目しながら解明することである。とくに、経済要因(グローバル経済やネオリベラリズムの浸透)、政治要因(植民地化や国家への政治的包摂)、環境要因(温暖化といった生態環境の変化)、社会要因(伝染病や自然災害などによる人口減少に伴う社会の再編成)、思想的要因(キリスト教化の浸透)といった諸要因(アクター)と先住民社会との間でいかなる歴史的相互作用が見られ、彼らが先住民として独自の文化をどのように生成してきたかに関して明らかにする。その上で、歴史的変化と現状と将来への展望を地域間で比較することにより、北米先住民文化の生成過程に関して一般化を試みる。

活動内容

2020年度実施計画

(1)2020年度は、各自が担当する北アメリカのアラスカ地域・北西海岸地域の先住民社会の文化・経済活動・物質文化の変化に関するデータを現地等で収集するとともに、整理・分析する。岸上は2020年8月に約2週間カナダのハイダ・グワイのスキドゲイトなどにおいて、12月に約1週間バンクーバー(ブリティッシュ・コロンビア大学人類学博物館等)において北西海岸先住民の経済活動と儀礼、アートの変化に関する調査を実施する。立川は2020年9月に約 3週間カナダ・バンクーバー島のキャンベルリバーなどで先住民のサケ漁における気候変動の影響と、伝統的政治・儀礼制度の変化に関する調査を実施する。生田は2020年の8月下旬から9月上旬にかけて米国アラスカ州ウットゥピアグビック市とセントローレンス島にて、石油等の地下資源開発とその開発の環境、先住民社会、先住民文化への諸影響、開発との共生に関する調査を実施する。また、2021年3月に米国のコロンビア大学とスミソニアン協会国立自然史博物館において米国人研究者と研究情報の交換と収集を行う。近藤はアラスカ内陸部のニコライ村で2020年9月にヘラジカ猟について、2021年1月にロシア正教と先住民との関係について調査をそれぞれ約2週間ずつ行なう。手塚は2020年8月に英国の大英博物館で北アメリカ先住民関連の特別展“Arctic culture and climate” を視察し、展示関係者らと学術交流を行う。また、2020年10月に米国ワシントン州オゼット遺跡で18世紀初頭に生じた「みなしご元禄津波」の影響とその後の伝承の在り方について、物質文化と口頭伝承の両面から現地調査を行う。
(2)研究代表者と研究分担者は2020年10月 (大阪の国立民族学博物館)と12月(札幌の北海道大学)に調査の成果を持ち寄り、情報共有と比較検討のための共同研究会を実施する。また、2020年10月開催予定の第35回北方民族文化シンポジウム網走において研究発表をするとともに、北海道立北方民族博物館等において北米先住民文化に関する資料・情報を収集する。
(3) 研究代表者はプロジェクト全体のホームページを国立民族学博物館のウエブ上に開設し、プロジェクトの概要や成果の発信を開始する。

2019年度活動報告

(1)2019年6月に研究計画全体を検討する研究会(大阪)、2020年2月に同年度の調査成果および次年度計画に関する研究会(札幌)を実施した。
(2)研究代表者と各研究分担者はアラスカ地域と北米北西海岸地域の先住民社会に関する歴史・環境・言語に関する基本情報の収集を行うとともに、国内外で文献調査を実施した。
(3)研究代表者と研究分担者は現地で予備調査を実施した。岸上は2019年8月に約2週間、カナダのハイダ・グアィやバンクーバーなどで先住民社会の生業とアート制作、社会変化に関する調査を実施した。立川は2019年9月から10月にかけて約3週間、カナダ・バンクーバー島のキャンベルリバーなどで漁業への温暖化の影響や経済活動に関する調査を実施した。生田は2019年8月19日から9月24日まで米国アラスカ州の5つの町を訪れ、石油等の資源開発や環境・社会の持続可能性に関して米国連邦政府やアラスカ州政府、先住民政府、北極圏研究の専門家との意見交換や現地調査を行った。近藤は2019年夏に正教会とアラスカ先住民の関係性に関する状況を把握するため、アラスカのクスコクィム川下流域で予備調査を実施した。手塚は2020年2月にカナダ歴史博物館(ガティノウ市)で、北米先住民族資料の調査とともに、展示表象の特徴と自然環境の変化がもたらした諸影響に関わる研究動向について調査した。また手塚は、複雑狩猟採集民の自然災害体験を社会的な脈絡とともに地理情報システムで処理し可視化するための手法を開発し、日本国内の被災地(奥尻島)で検証した。
(4)研究代表者や研究分担者は、2019年6月に日本文化人類学会(仙台)、8月に国際人類学・民族学会(ポーランドのポズナン)、9月にカナダ学会年次研究大会(鹿児島)、10月に第34回北方民族文化シンポジウム(網走)などにおいて本研究の構想や成果に関する発表を行った。