国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

シルクロード都市の形成ならびに人と文化の東西交流に関する考古学的研究(2019-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 寺村裕史

研究プロジェクト一覧

目的・内容

ユーラシア大陸における東西交流(東洋と西洋)と南北交流(農耕民と遊牧民)の十字路として、中央アジアは人類史・文明史における重要な発展が為された舞台であった。本研究は、中央アジア・ウズベキスタン共和国を研究対象地域として、東西・南北交流の結節点としての古代シルクロード都市の果たした役割と、それらの都市を介して行われた人や文化の交流の実態を考古学的に明らかにすることを目的とする。シルクロードの成立による東西交流が活発化した背景にある人やモノの動きに着目し、発掘調査の成果を軸とした物質文化に焦点を当てることで都市遺跡間での交流の相互作用・推移を解明し、それが中央アジア史において果たした大きな役割について比較考古学的側面から考察する。

活動内容

2020年度実施計画

本年度は、8月後半~9月にかけて、現地(サマルカンド)のウズベキスタン科学アカデミーヤフヨ・グロモフ考古学研究所と協働でカフィル・カラ遺跡の発掘調査を実施する予定である。カフィル・カラ遺跡では、2019年度調査時にシタデル(城塞地区)において貯蔵庫と考えられる部屋の床面を検出したが、床面の下部にさらに古い時期の遺構がまだ埋もれた状態で残っている可能性があり、それらの確認作業を継続する必要がある。そうした調査を実施することにより、カフィル・カラ遺跡がどのようにして形成されたかを探り、都市の成り立ちに関する考古学的な情報を得ることが目的である。さらに、遺跡周辺部(シャフリスタン)においてトレンチ調査を実施し、古代都市の構造を検討する材料とする。また、2019年度に購入した遺跡周辺の衛星画像をもとに、発掘調査と並行して、ザラフシャン川中流域に点在する都市遺跡の分布踏査ならびに衛星画像解析による遺跡情報の収集に努める。そして、昨年度と同様に、古環境調査および古代道路網の復元に関して、現地の地理学や古環境を専門とする研究者と共同研究を進める。特に分布踏査においては、GPSを使用して都市遺跡の悉皆的な分布・立地状況を把握し、基礎データを充実させることを継続する。
発掘調査終了後の10月~翌年2月頃にかけては、日本国内において、都市遺跡の立地場所と周辺環境をGISを用いて比較・統合するためのデータ作成をさらに推し進める。それらの地理的・空間的情報をGIS上で統合・管理することにより、どのような場所(地形や周辺環境)に都市が築かれたのかを考察する際の基礎データとする。また、カフィル・カラ遺跡と他の周辺都市遺跡における出土遺物・遺構の比較研究を実施するための資料集成を継続し、都市遺跡同士の位置関係やシルクロードとの関係性など、シルクロードを通じた人と文化の交流に関わる時空間的な分析を行うためのデータ整理を進める。

2019年度活動報告

本研究は、ユーラシア大陸における東西交流(東洋と西洋)の結節点としての古代シルクロード都市の果たした役割と、それらの都市を介して行われた人や文化の交流の実態を考古学的に明らかにすることを目的とする。
上記の目的のため、令和元年(2019年)9月に、ウズベキスタン共和国・サマルカンド市に所在するウズベキスタン共和国科学アカデミー ヤフヨ・グロモフ考古学研究所(以下、考古学研究所)と国立民族学博物館(民博側協定担当責任者:寺村)との間で、学術協力に関する協定を締結し、その協定のもと現地ウズベキスタンでの調査を実施した。
具体的には、研究代表者である寺村を中心に研究分担者・研究協力者とともに日本側の調査隊を組織し、サマルカンド近郊に所在する古代のオアシス都市遺跡であるカフィル・カラ遺跡での発掘調査を、考古学研究所との協働調査として実施した。カフィル・カラ遺跡では、城塞部(シタデル)において、2017年調査時に出土したゾロアスター教関連の木彫板絵が見つかった部屋とは異なる部屋を発掘し、炭化物や土器片の取り上げと写真測量による遺構の記録作業を実施するとともに、その場所が穀物倉と考えられる部屋(遺構)であることを明らかにした。さらに、カフィル・カラ遺跡がどのようにして形成されたかを探り、都市の成り立ちに関する考古学的な情報を得ることを目的として、城塞周辺部(シャフリスタン)においてトレンチ調査を実施した。
また、発掘調査と並行してザラフシャン川中流域に点在する都市遺跡の分布踏査による遺跡情報の収集につとめるとともに、発掘調査終了後の11月~翌年2月頃にかけては、日本国内において遺跡周辺の衛星画像を購入し、都市遺跡の立地場所と周辺環境をGISを用いて比較・統合するための基礎データ作成、ならびに衛星画像の解析を進めた。