国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

文化遺産の「社会的ふるまい」に関する応用人類学的研究:東部アフリカを事例に(2019-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 飯田卓

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究では、国内的に支持されてきた「世界文化遺産」がその価値をめぐってどのような課題を抱えており、それをめぐって国内外のさまざまなアクターがどのような働きかけをおこなっているかを、民族誌的(=ボトムアップ的)に明らかにしていく。複数のアクターの働きかけを受けて文化遺産の価値が振幅するようすを、本研究では「文化遺産の「社会的ふるまい」」とみなし、記述を進めるとともに、あらたな実務モデルを構築するための実証的資料も集めていく。
本研究の核心的な問いは、人びとはどのような場合に互いの文化遺産を認めあえるのか、文化遺産はどのような場合に人びとを繋ぐことができるのか、ということに尽きる。この問いに関して知見を深めることが、本研究の大きな目的である。

活動内容

2020年度実施計画

第2年度は、個々の社会文化的コンテクストをふまえて文化遺産の参与観察と民族誌的記述をおこなうとともに、比較分析をおこなう。より具体的にいうと、年度初めの国内研究会で成果を共有し、各国の文化遺産制度と各遺産の概況(文化遺産の規模や歴史的経緯、文化的性格、担い手の数や範囲、担い手とそれ以外の人びととの関係など)を一覧できるようなかたちでまとめる。このうち文化的性格というのは、申請者が文化の三極モデルと呼ぶ図式のいずれの意味に近しいかを示すものである。文化という語が表に示した3つの意味をたえず往還しながら具体的様相を変えていることをふまえ、研究対象となる文化遺産が場面に応じてどの意味で解釈されるかに注意し、定性的比較を進める。

2019年度活動報告

年度の最初と最後に研究会をおこない、研究の趣旨や方法論を共有するとともに、1年間の活動を通して得られた成果も共有した。「文化遺産の社会的ふるまい」に関わるさまざまなアクターを洗いだしたことと、「コミュニティ」の主体性が発揮される場をそれぞれの事例において特定したことが、今年度に得られたもっとも大きな成果である。年度末の研究会は、感染症の蔓延に対応するため急遽ビデオ会議の方式でおこなったため、研究協力者のゲスト参加を得ることができなかったが、ビデオ会議でかなりの議論共有がはたせることがわかったことは収穫だった。

各研究分担者は、計画どおりの分担にもとづいて、ケニアとタンザニア、ウガンダ、コモロでの現地調査をおこなった。また、これらの現地調査をふまえて、2020年度の「野外実験」で用いる写真や動画の整理をおこなった。

学術的な知見はこれからおいおい整理していくことになるが、研究計画に関わる知見として、文化行政に関わる各国の態勢の差異が明らかになりつつある。ケニアでは記念碑保存を司る部局と博物館運営を司る部局が2008年に合併し、その部局が無形文化遺産を守備範囲に収めつつある。いっぽうで、国立公園行政は別の部局のままである。こうした文化行政部局の統合により、ユネスコが提唱する文化遺産への統合的アプローチが取りやすくなっていることは、ケニアの大きな特徴である。今後、他の国も含めて文化行政の実情に関する情報を整理し、複数の事例を比較するさいの基準としたい。