国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

日本手話、台湾手話、韓国手話における語と意味の歴史変化の解明(2019-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 相良啓子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、歴史的に関連がある日本手話ファミリーの語や表現の意味および用法の変化を明らかにすること、また、その成果をこれまで進めてきた音韻、形態の変化に関する研究成果と合わせて手話言語学における史的変遷を体系的に示すことである。
本研究は、また、これまで日本手話の研究では行われてこなかったグローバルな視点を重視して研究を進めるという点で創造性がある。オランダのナイメーヘンに本部を置くラドバウド大学のOnno Crasbornが運営する手話言語のデータベースGlobal Signbank (https://signbank.science.ru.nl/)を利用して、語の形と意味を分析するが、そのために有効な語や表現の意味や概念の登録の仕方をCrasbornと共同で検討する。

活動内容

2020年度実施計画

Global Signbankへの語の登録作業を進め、動画と共に特に音韻に関する情報を登録する。親族表現の動画が登録可能な動画として編集が済んでいるため、日本手話、台湾手話、韓国手話の3言語の語彙を比較できるように進める。今年度は、収集データの収録方法のあり方を検討し、フィールド調査に備える。また、11月に米国で国際学会が予定されているため、研究発表を行えるよう準備を進め、米国の手話言語学研究の専門家と研究の議論を行いたい。

2019年度活動報告

6月に、Global Signbankを構築しているラドバウド大学のCrasborn氏および研究分担者の原と、データの登録方法について打合せを行った。データの登録開始に向けて、現在使用されている表現と似ている形をもつ古日本手話のデータ「100語」の抜き出し作業を進めている。古日本手話のデータは、日本手話ファミリーにおいて、形が共通、あるいは類似している表現で、意味が同じものと意味が異なるものを中心に選択している。親族表現、地域変種が明らかな表現を優先に作業を進めている。
本研究の関連として、研究分担者の菊澤と、6月に「Paradigm Leveling in Japanese Sign Language and Related Languages 」のタイトルで執筆した論文が、『Senri Ethnological Studies/Senri Ethnological Studies』に掲載された。パラダイムが部分的に変化したものとパラダイム全体が変化したものについて分け、記述法を用いて語彙の変化のあり方を明らかにした。9月にハンブルク大学で開催された第13回国際手話言語学会において「Numeral Variants and TheirDiachronic Changes in Japanese Sign Language, Taiwan Sign Language and Korean Sign Language」についてのポスター発表を行った。そこで得られた、手話言語学研究者からのフィードバックを参考として、今後の研究に反映させていく。また、「日本手話、台湾手話、韓国手話の二桁から四桁の数の表現における変化―「10」「100」「1000」に着目して―」のタイトルで執筆した論文が、『国立見民族学博物館研究報告44巻3号』に掲載された。次年度は、蓄積された基本用語を基にして、今後「意味の変化」を調査するにあたり必要なデータ収集に向けて、その収集方法について検討していく。