国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

レソトにおけるジンバブエ移民行商人の会計方法にかんする人類学的研究(2019-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究 代表者 早川真悠

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、南部アフリカにおける人びとの「固有の会計方法」を明らかにする。具体的には、レソト王国におけるジンバブエ人出稼ぎ移民の行商活動について、彼ら独自の会計方法(価値の計量、財産管理、取引記録)に焦点を当て人類学的調査をおこない、その結果を現代社会の会計・監査方法と比較する。
会計・監査の技術や知識は、近年、国際的・社会的拡大が急速に進んでいる。会計的発想にもとづき規律化が進む社会のあり方を、人類学者や社会学者は「監査社会」「監査文化」と呼び、人間の諸活動を過度に数値化し評価するものとして批判的に検討してきた。
本研究は、レソトのジンバブエ人行商人が、何を考慮し、どう数える(count)のかを、現地調査、文献調査、比較研究をとおして具体的に明らかにする。現代社会とローカル社会における会計方法の違いを探り、過度ではない「適度な」数値化があるとすればどのようなものなのか実証的に検討する。

活動内容

2020年度実施計画

・貨幣や行商、信用にかんする文献調査を進めながら、可能となり次第、現地調査を再開する。
・現地調査はなるべく1カ月以上の調査を試みる。それが難しければ、調査期間を月末から月初に設定し、行商人の集金について詳しく調査できるようにする。
・現地調査の可能性について検討しながら、経済人類学やレソトにかんする文献研究を進める。

2019年度活動報告

本研究の目的は、南部アフリカにおける人びとの「固有の会計方法」を明らかにすることにある。具体的には、南部アフリカ・レソト王国におけるジンバブエ人出稼ぎ移民の行商活動について、彼ら独自の会計方法(価値の計量、財産管理、取引記録)に焦点を当て人類学的調査をおこない、その結果を近代会計や監査制度と比較する。
今年度は以下のとおり(1)現地調査、(2)研究成果発表、(3)文献調査をおこなった。(1)2019年8月29日~9月20日までレソト首都マセルで現地調査をおこなった。ジンバブエ系移民が多く暮らす郊外地区に滞在し、彼らの経済活動について参与観察をおこなった。商売のサイクル、ジンバブエとのネットワーク、頼母子講などについて概略を把握した。また、現地滞在中は国立レソト大学人文学部のセミナーで発表をおこない、大学で人文・社会科学を専門とする研究者と意見交換をおこなった。とりわけジンバブエ人の歴史学者や経済学者から有益なコメントを得られた。(2)日本アフリカ学会第56回学術大会にて、レソトのジンバブエ移民行商人にかんする発表をおこなった。その他、インフォーマル経済にかんして研究会で発表し、巨大数にかんする雑誌の特集号にジンバブエの貨幣についての論考を寄稿した。(3)貨幣やインフレにかんする経済人類学の文献調査をおこなった。とくにF. Neiburgらによる南米インフレ経済の研究を踏まえ、ジンバブエにおける人々の貨幣の使い方の特徴がより明確になり、現地調査をするうえでの手掛かりを得た。
なお、研究計画では2~3月にも現地調査を行う予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響から中止とした。