国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

マタンサ デ ポルコ 2007年1月16日刊行

野林厚志

今回の年末年始展示イベントでは、収蔵庫から世界各地のイノシシやブタにまつわる資料を探し出して展示している。干支の動物は主に東アジアの国々で親しまれているが、それ以外の地域でも、動物への思いはいろいろあったりする。「マタンサ デ ポルコ」と題されたポルトガルのポルト地方で作られている土製の人形にも、人間がもつ動物への思いがこめられている。

ポルトガル語で「ブタを殺す」という意味のこの人形は、秋のとば口にブタを殺して、塩漬けの肉、腸詰、燻製肉、ハムといったいろいろな保存食品をつくり、長い冬に備えるヨーロッパの農村風景の一コマを物語っている。ポルトガルに限らず、ヨーロッパにおいてブタは大切な家畜の一つとなってきた。豊かな森林に恵まれたかつてのヨーロッパはブタの放牧に非常に適した地域であった。森林の中でどんぐりをおなかいっぱい食べたブタは、まさに自然の恵みを人間に分け与えてくれる動物の中でも優等生中の優等生なのである。

ところで、この資料はブタを殺す場面が色鮮やかに描きだされていて、なかには残酷な印象をもつ人もいるかもしれない。動物を殺したり、動物の死体を処理することが忌避されてきた歴史的な背景をもっている国や地域では、「動物を殺すことは残酷なこと」といった考えかたがまだまだ根強く残っているかもしれない。しかしながら、ヨーロッパに限らず、家畜動物を大切に育てている人々はその恵みを確かめるかのように、自らの手で動物を屠り、決して無駄のないように動物のからだのすみずみまで利用するものである。それは最後まで家畜を育てるという責任を果たすことを意味している。

動物に対する真摯な態度をもった人々は決して無責任に動物を殺したりはしない。あえて、ブタを屠る場面を人形にしたのは、それが人々にとって大切な場面であったからだろう。たとえ小さくても、おもちゃのようなものでも、人々の思いがこめられた資料は少なくない。そんなオタカラが民博の収蔵庫にはいっぱいつまっているのである。

野林厚志(文化資源研究センター助教授)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H150749 / 標本名:人形(豚殺し)[ポルトガル共和国]

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