国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

サン絵画 2010年9月16日刊行

池谷和信

現在、みんぱくには10点のサン絵画が所蔵されている。いずれも、1998年に私がボツワナにあるサン(ブッシュマン)の作品を販売する店で購入したものだ。当時、デカールという小さな村には、クルーという名のサンの生活を支援する非政府組織(NGO)がつくられており、14名の絵描きが暮らしていた。

サンは、カラハリ砂漠の狩猟採集民として知られており、彼らの祖先は岩壁をキャンパスに見立ててキリンなどの動物を描いてきた。しかし現在、岩絵を書いたことのある人はいない。クルーの関与のもと絵を描き始めたのである。布切れやボードは無料で、筆や絵の具代は自前である。自分の絵が売れると、販売金額の6割の現金を入手できる。

彼らが絵を描き始めた1990年頃には、誰もここまで有名になるとは思っていなかった。1993年の国連による世界先住民年などの動きも関与して、先住民に対する一般社会のまなざしの変化と結びつき、その絵画が欧米などで注目されるようになった。1997年には英国航空の尾翼の絵として、世界の「アーティスト」とともにサンのものが選ばれたことは大きい。それから現在まで、世界各地の博物館・美術館にて「サン・アート」の展示が続いている。

絵描きの一人タマエ氏は、私に言った。絵による収入で新しい家が建ったけれど、アーティストとしての意識は強くないという。カラハリ砂漠の動物や植物を中心としたサンの生活世界を描いてきただけのようだ。

池谷和信(民族社会研究部教授)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0213069 / 標本名:サン絵画

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◆関連ページ
特別展「彫刻家エル・アナツイのアフリカ―アートと文化をめぐる旅」(2010年9月16日(木)~12月7日(火)開催)