国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

ノートの落書きから

(1)エチオピアの戦士 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2016年5月12日刊行

川瀬慈(国立民族学博物館助教)


エチオピア北部の調査で用いたフィールドノートのところどころに、子供たちの落書きをみつけた。それらは抽象的な図柄から、完成度の高い絵、あるいはアルファベット文字の練習と見受けられるものまでさまざまである。よくもまあこんなに、と思うほどのイメージがところどころで自己主張している。

たとえばこの戦士の絵=写真。口ひげをたくわえたカラフルな戦士が、鋭い剣と円形の盾を持ち、はだしで大地を踏みしめている。そして、細かい升目がしきつめられたようなヘアスタイル。これは現地のアムハラ語で“ショルパ”と呼ばれる類の、三つ編みを平行に頭皮に並べる、いわゆる“コーンロウ”を表現していると思われる。

19世紀に近代化政策を推し進め、英国軍と果敢に戦った皇帝テオドロス2世やその戦士たちは、この髪型をしていたといわれている。エチオピアのかつての勇壮な戦士をイメージして描かれた絵なのであろう。

絵の下には、作者の名前〈ヨハネス・タシャレ〉と、日付〈2002年10月〉が薄く記載されている。この絵を描いた少年はすでに病死して久しい。しかし、乱雑な文字で埋められたフィールドノートのページとページの合間から、エチオピアのかつての戦士は、私に何かを語りかけてくるのである。

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