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旅・いろいろ地球人

モンゴル草原奇譚

(1)呪術師に弟子入り ㊤  2021年1月9日刊行

島村一平(国立民族学博物館准教授)


ホブド行きのトラックを背後に。右から二人目が筆者=モンゴル国ホブド市で1997年7月、筆者提供

真っ赤に焼いた鉄を舐めながら治療をする呪術師が西の辺境にいる。そんな話を聞き、いてもたってもいられず西を目指した。1997年夏。モンゴル国立大学の大学院で学んでいた時のことである。

首都ウランバートルからトラックの荷台に乗って草原のガタゴト道を揺られること3日間。ごつごつとした岩山の裾野にあるシルクロード風味の小さな町に着いた。古都ホブドである。住民も青い目をした者や茶色い髪の毛の者など、「西域」を感じさせる。その町の郊外にポツンと遊牧民の移動式住居ゲルが建っている。灰色のフェルトが野ざらしの粗末なゲル。それが件の呪術師の家だった。ゲルの奥には彫りが深くて眼光の鋭い男が座っていた。

「おまえは大学院で民族学を専攻しているのなら、俺に弟子入りせねばならない」。そう言われ、なんとなく弟子入りすることに。若いって怖い。教えられた呪文をひたすら繰り返し唱える「修行」を始めて3日たった。「あの○○の呪文を7回唱えよ」。師匠はそう言うと、おもむろにゲルの中央にあるストーブに長い鉄の棒をくべはじめた。「唱えたか?」「はい」「では、舌を出せ」。なんと師匠の手には、先端が真っ赤に焼けた鉄の棒が握られているではないか。ぎっと私を睨んで師匠は野太い声でこう言った。「おまえは、できる」

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