国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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音楽の名手たち

(1)神につながる音 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2017年11月2日刊行

寺田吉孝(国立民族学博物館教授)


父デムコと共演するサミール(左)=ブルガリア・ブラゴエヴグラト州で2006年11月、筆者撮影

ズルナは、トルコからバルカン諸国にかけて演奏されるチャルメラの一種。結婚式や祭礼などで欠かせない楽器だ。ブルガリアにこの楽器の若き天才がいると教えられ、2006年、彼が住む南西部ブラゴエヴグラト州に向かった。

落ち合う約束をしたホテルに着くと、ピーター・オトゥール似の男が待っていた。眼光が鋭く一瞬びくっとしたが、私に気がつくと笑顔で迎えてくれた。これが名手サミール・クルトフとの最初の出会い。

サミールはズルナの演奏を革命的に変えたという。達者な演奏家は数知れないが、彼は群を抜いてすばらしい。若いズルナ奏者たちの憧れの的でもある。

見た目にもこだわるサミールはお洒落な装いで、腕を横に広げて演奏する。その姿は空を翔る鳥のようにも見え、彼のズルナから吹きでる凄まじい音の飛翔感とぴったりだ。

サミールは、少年時代に大きな影響を受けた叔母が眠る墓地で、自分の半生を語ってくれた。ズルナの秘密を「発見した」彼は、演奏中に神とつながる感覚があるという。

ブルガリアのズルナ奏者はほぼ例外なくロマであり、主流社会から疎外されてきた。サミールが超越的な音楽との関わりを語ってくれたロマの墓地は、いまだにブルガリア人の埋葬地と区別されている。

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