国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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音楽の名手たち

(2)不動の上半身 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2017年11月9日刊行

寺田吉孝(国立民族学博物館教授)


クリンタンを演奏するマイモナ・カダー(右から3人目)=フィリピン・ミンダナオ島で2008年3月、筆者撮影

フィリピン南部のミンダナオ島に住むイスラム教徒は、クリンタンとよばれる音楽を演奏してきた。クリンタンは、大きさの異なる八つのゴングが台の上に並べられた楽器で、2本のバチを使ってメロディーを奏でる。伴奏楽器は太鼓や木の枝などからつり下げられる大きなゴングなど。音楽はイスラムの教義とは全く無関係で、結婚式や割礼の儀礼などで人々の娯楽として演奏される。

この音楽の名手マイモナ・カダーが、昨年惜しまれながら亡くなった。名手と呼ばれるには、演奏する音楽が素晴らしいだけでは十分ではない。洗練され威厳のある立ち振る舞いが求められるからだ。

右足だけ立て膝をして演奏するのが正式で、この姿勢で優れた演奏をするのが名人の徴。初心者はゴングを見ていても打ち損じるが、彼女はわざと楽器から視線をはずす。マイモナはこの姿勢で、目にも止まらぬバチさばきでゴングを打つのだが、肘から上はびくとも動かない。彼女の不動の姿は見とれるほどに美しい。

2003年、マイモナを日本に招き、国立民族学博物館で公演を開いた。私も伴奏者として同じ舞台に立てたのは、一生の思い出だ。公演の合間に彼女の演目すべてを映像記録したが、これは次世代の奏者たちの宝物となった。

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