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文化の創造と継承

(2)父の遺産の返還運動 『毎日新聞(夕刊)』掲載 2016年3月17日刊行

吉田憲司(国立民族学博物館教授)


返還された仮面の前で演じられる仮面舞踊=ウミスタ文化センターで2009年、筆者撮影

近年、欧米の博物館から世界各地への文化遺産や遺骸の返還があいついでいる。こうした返還の動きのさきがけになった例として、カナダの北西海岸、アラート・ベイに生まれたグロリア・ウェブスターの活動があげられる。

1921年、ウェブスターの父、ダン・クランマーは、史上最大規模のポトラッチを主催した。ポトラッチとは、人の一生の節目の機会に踊りを催し、その場で家族が所有する財産を披露するとともに、莫大(ばくだい)な贈り物を会衆にふるまう、という儀式である。

当時のカナダ政府は、ポトラッチを「野蛮」な風習として取り締まろうとしていた。ダン・クランマーは逮捕され、その儀式で用いられたすべての財産の放棄を迫られる。クランマーは、財産の放棄に同意するが、このとき、クランマーには、モノを手放しても、それを作る知識と技術がある限り、自分たちの文化は守りうるという判断があったという。

グロリア・ウェブスタ-は、接収された文化財の返還運動を根強く展開し、90年、ついに父が手放した遺産の返還を実現し、その文化遺産を収蔵する施設として故郷にウミスタ文化センターを設立した。伝承されていた技術を用いて、人びとは新たな仮面や彫像を作り、現在ではアラート・ベイのポトラッチは完全に復活している。

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