国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ネパールにおける教育の市場化と生活世界の変容―貧困層の親族・移動・暴力に着目して(2016-2018)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 安念真衣子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、現代ネパールにおいて、教育の市場化がどのように拡大し、それに伴って生活世界はいかに変容しつつあるかを、農村地域の貧困層の人びとの日常的実践から実証的に明らかにすることを目的とする。ネパールでは近年、「より良い教育」を目指して就学や就労のために農村部から都市部や海外へ移動する現象が顕著である。本研究は、そうした社会情況において、農村地域に生活の基盤を置く人びとの生の営みはどのように変化しつつあるのかを捉えようとするものである。本研究では特に、親族ネットワークと生活基盤の変化による空間的な移動可能性、教育投資に伴う社会向上的な移動性、教育志向に付随する暴力的状況の関係に着目して、教育の市場化とそれに伴う生活世界の動態を総合的に考察する。

活動内容

2018年度実施計画

本研究では、上述の目的を達成するため、Ⅰ.教育の市場化はいかなる現象か、Ⅱ.教育の市場化はいかに可能となっているか、Ⅲ.教育の市場化はいかなる社会変化をもたらしたかという問いを検討する。その際、①教育の市場化の動態、②空間的移動を可能にする親族ネットワーク、③農村地域の生活基盤、④社会集団の再編、⑤教育投資と暴力的状況の相関、に着目して調査を実施し、研究を遂行する。
本年度は特にⅢの問いについて明らかにすることを目指す。そのため、二度の現地調査をおこなう予定である(平成30年8月~9月、平成31年2月~3月)。現地調査を通して、人びとがもつ教育言説や教育イメージと、教育によって社会集団が流動的に再編するさまを捉え、教育の市場化がいかなる社会変化をもたらしているかを考察する。また近年、教育制度が大幅に変化したことを受けて、その実際的な変化の内容、および人びとの教育イメージに対する影響を合わせて調査する。
これらを基にして、国内外の研究会での報告、論文の投稿をおこなう予定である。本年度は研究三年目にあたるため、これまで収集した調査資料を総合的に精査し、これまでの研究をまとめることを目指す一年と位置付ける。

2017年度活動報告

本研究の目的は、現代ネパールにおいて教育の市場化がどのように拡大し、それに伴って生活世界はいかに変容しつつあるかを、農村地域の貧困層の人びとの日常的実践から実証的に明らかにすることである。本研究では特に、親族ネットワークと生存基盤の変化による空間的な移動可能性、教育投資に伴う社会向上的な移動性、教育志向に付随する暴力的状況の関係に着目して、教育の市場化とそれに伴う生活世界の動態を総合的に考察する。
この目的を達成するため、研究二年目にあたる本年度はフィールドワークを実施するとともに、蓄積した調査資料を分析し理論化することを目指す一年と位置づけた。そして、教育の市場化の動向を把握するため、二度の現地調査をおこない(平成29年8月~9月、平成30年2月~3月)、インタビュー調査を実施した。
平成29年8月から9月にかけての調査では、学校選択(学校通学状況、教育費の支出、通学を理由とする移動の状況等)についての聞き取りとネパール大地震後の家計に関する聞き取りを、平成30年2月から3月にかけての調査では、学校選択と子どもの将来設計についての聞き取りをそれぞれ実施した。
これらの現地調査での参与観察と聞き取り調査から、住宅再建過程の把握とその過程における学校を中途退学した生徒の関与が観察された。経済的な事情や新たな建築労働者の需要を要因とする生徒の退学、近年教育制度が大きく変化したことにより公立学校が再評価され始めたこと、建築労働に携わる若者の移動現象など、興味深い状況が見受けられた。
アウトプット活動として本年度は、国内の主だった南アジアの教育に関する研究者が集う研究会(2017年8月)およびネパール研究者が集う研究会(2018年1月)において、本研究に関する報告をおこなった。多様な指摘をいただき研究の進展にとって非常に重要な議論の場となった。

2016年度活動報告

本研究の目的は、現代ネパールにおいて、教育の市場化がどのように拡大し、それに伴って生活世界はいかに変容しつつあるかを、農村地域の貧困層の人びとの日常的実践から実証的に明らかにすることである。ネパールでは近年、「より良い教育」を目指して就学や就労のために農村部から都市部や海外へ移動する人びとが増加している。農村地域に生活の基盤を置く人びとの生の営みはどのように変化しつつあるのか。本研究では特に、親族ネットワークと生活基盤の変化による空間的な移動可能性、教育投資に伴う社会向上的な移動性、教育志向に付随する暴力的状況の関係に着目して、教育の市場化とそれに伴う生活世界の動態を総合的に考察する。
この目的を達成するため、(1)教育の市場化の動態、(2)空間的移動を可能にする親族ネットワーク、(3)農村地域の生活基盤、(4)社会集団の再編、(5)教育投資と暴力的状況の相関に関する調査をおこなう。
研究初年度である本年度は、2017年2月から3月にかけて、カトマンズ盆地および近郊農村での現地調査を実施した。都市部では、ネパール私立・寄宿学校機構を訪問して同機構の設立や現体制についての資料を入手した。農村部では、学校選択と教育費についての聞き取り調査をおこなった。初等教育学校に通学する児童の母親(30代~40代女性)を対象に、彼女らと日常生活を共に過ごしながら子どもの学校選択と学費の捻出をどのようにおこなっているかを調査した。調査地域では、一昨年のネパール大地震の影響により、仮設住居での生活が続いているため、私立学校への通学は家の再建と併せて喫緊の課題とされており、学費の滞納のために翌年度から転校や退学が検討されている事例を確認した。また、アウトプット活動として、日本文化人類学会研究大会での口頭発表、学術誌『アジア教育研究報告』への投稿などをおこなった。