国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

社会をつくる芸術:「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」の人類学的研究(2016-2018)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 登久希子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

近年、貧困や紛争、気候変動、移民、過疎化といった「社会的な問題」に関わる芸術実践が世界各地でみられるようになってきた。「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」と呼ばれるそれらの試みは、「社会的な問題」の表象というよりむしろ何らかの現実的な変化や解決策の獲得を目指す芸術である。プロセスを重視し、近代西洋的な意味での「芸術」からは乖離していくように見えるそれら同時代の「社会的」な芸術実践は、完成した作品を前提とする既存の芸術の分析枠組みでは十分に論じることができない。「社会」を志向する芸術実践を論じるために、既存の「社会」と「芸術」概念を再検討し、フィールドワークに基づいた人類学的な芸術研究の方法論を提示することが本研究の目的である。

活動内容

2017年度実施計画

平成29年度は、ひきつづき日本、アメリカ、ポーランドにおける現地調査を行うともに、前年度に得たデータに基いた考察やSEAに関する情報をホームページや論文投稿等を通して日本語および英語で発信していく。平行して、関連する分野の研究者や実務家と積極的に意見交換等を行っていく。
・関連する文献や資料の収集および調査を行う。
・前年度の研究成果をまとめ、日本文化人類学会、アートマネジメント学会等で発表を行う。
・継続的な東京での調査(居住地のため)に加え、7月末から9月中にアメリカ(ニューヨーク)とポーランド(ワルシャワ)でそれぞれ25日間程度の現地調査を行う。調査終了後は、調査で得られたデータの整理を行う。
・平成30年度に計画しているワークショップの準備として、招聘予定の研究者と内容の打ち合わせ、会場の確保等を行う。
・ホームページを通して研究の紹介や情報発信を行う。

2016年度活動報告

本研究は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートやソーシャル・プラクティス等と呼ばれる近年の参加型のアート実践を事例に、「社会」および「芸術」という概念を再検討することを目的としている。プロセスを重視し、物質的な「もの」としての作品制作を必ずしも前提としないそれらの実践は、近代西洋的な意味でのアートからは一見乖離していくかのように見える。完成した作品を前提とする既存の芸術の分析枠組みでは十分に論じることができないそれらのアート実践について、本研究はフィールドワークに基づいた人類学的な芸術研究の方法論を提示することを目指している。
初年度は文献研究に加えてポーランドにおける短期調査と東京における継続的な調査を行った。ポーランドでは、現地のアーティスト、キュレーター、研究者へのインタヴュー、関連する資料の収集を行なうことで、アートに「社会的な」役割を求めるポーランドの若手作家の多くが「批評的美術」として知られる一世代上のアーティストたちの社会・政治批判的な芸術実践を参照にしつつ、それを越えようとする試みを行っていることが明らかになった。次年度以降は、実際のプロジェクトの参与観察を行っていく予定である。
東京においては、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの文脈で語られるプロジェクトのフィールドワークを行い、いかにプロジェクトへの「参加」が実現されるのかを追った。とくに注目したのは「参加者」たちが自らの実践のどのような部分に「芸術」性を見出しているのかという点である。
「参加」すること、「社会」を見出すこと、ある行為が「芸術」であること、そしてそれぞれがいかにひとつのプロジェクトにおいて関係し合っているのか、今後の調査研究の中で引き続き考察していくこととする。