国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

チベット文化圏東部の未記述言語の解明と地理言語学的研究(2017-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(A) 代表者 鈴木博之

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、チベット文化圏東部の3つの地域区画(中国チベット自治区東端、四川省甘孜州中部、同州北端)において、チベット人によって話される未記述のチベット語諸方言及び非チベット語諸方言の基礎語彙・基礎文例の記録を目的とする現地調査を可能な限り多く行い、得られたデータを地理言語学的手法で分析することを通じて言語分布をより詳細に把握するとともに、諸言語間の言語特徴の異同について明らかにしたうえで、当該地域の文化的・社会的上位言語であるチベット系諸言語が他の少数言語に与えた影響およびその歴史的過程を解明することである。

活動内容

2018年度活動計画

本研究は臨地調査、データ整理・解釈、成果発表の3つに大別される。
本年度は、まず、臨地調査として4月および8月に四川省理塘県での集中的調査を実施する。8月の調査期間において、記述言語学の訓練を受けたチベット人研究協力者2名をチベット自治区に派遣し、未記述言語・方言の記述言語学的調査を行い、基礎語彙および基本例文の記録を行う。欧州における調査について、未記述言語を話すチベット人との研究協力についての具体的時間を決め、内省によるデータ記録、および共同研究を行う。
以上の作業によって得られたデータを、これまでに入手・記録済みのデータと突合する。調査で得られた言語分布に関する地理情報は、言語地図に反映させるため、それぞれの地理情報を適切な形で電子化する。また、得られた言語データの中で、非チベット系言語の語彙データについては、チベット・ビルマ系言語のオンラインデータベースSTEDTを用いて多言語との対照を行い、言語所属と方言分岐に関するより詳細な知見が得られるよう試みる。
以上の研究で得られた成果について、国際研究集会で口頭発表を3件行う予定である。

2017年度活動報告

本研究は大きく1)現地調査、2)データ整理・解釈、3)成果発表の3種に分かれる。
1)については、研究代表者自身について、フランスにおける言語資料収集、中国四川省理塘県におけるフィールドワークの2点を行い、前者においてチベット自治区Basum(巴松)語の言語データ(約600語)を整理し、後者において24地点につき語彙(最大2000語)・文例(最大200文)を収集した。これには、カムチベット語、アムドチベット語、チョユ語が含まれる。次に、研究協力者3名をそれぞれチベット自治区チャムド市、ベルギー・ブリュッセルに派遣し、チャムド市内に分布域のある未記述言語の計12種類の変種(方言)について、それぞれの社会言語学的情報と語彙資料(最大2000語)を収集した。これらの調査の過程で、チャムド市およびその近隣地区にさらに未記述言語が存在するという情報を得た。
2)については、まず収集した語彙資料の電子化し、検索可能なデータベースとした。同時に、収集したデータの地点をGoogle Mapsを用いて緯度経度情報を取得し、言語地図作成のためのオンラインソフトArcGIS onlineで扱える形式にまとめた。また、チャムド市内の未記述言語のデータについて、語彙形式の比較を行い、チベット系諸言語からの借用語を判別し、抽出できた本来語と考えられる語彙に音韻対応が認められるかについて分析した。その結果、これらは少なくとも3つの言語に分けられ、それぞれをラモ語、ラロン・マ語、タヤ・マ語と名づけた。
3)については、未記述言語の1つラモ語について、国際シナチベット言語学会(北京)で発表を行い、社会言語学および言語分布に重点を置いた論文を執筆し、国際誌に投稿した。