国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

個別文化の標準化問題に関する文化人類学と会計学の学際的共同研究(2017-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|挑戦的研究(開拓) 代表者 出口正之

研究プロジェクト一覧

目的・内容

現代社会は、世界標準的なモノサシによって評価や監査を行うことが蔓延してきている。この問題に対して会計学者のMichael Powerは「認定の儀礼」(國部克彦・堀口真司の邦訳では「検証の儀式化」)という副題をわざわざ入れて『監査社会』を著し、それを受けた形で文化人類学者のMarilyn Strathernが『監査文化』を世に問い「監査」をめぐる課題が会計学・文化人類学にとってグローバル化を挟んで共通する大きなテーマであることが明示された。しかし、両学問の壁は大きく、その壁を取り除くことはできていない。そこで、本研究は普遍化と個別化の問題が顕著に出ている「非営利法人の複数の会計基準の標準化問題」の研究を契機として、文化人類学者と会計学者の知見を融合させ、評価・監査を重視する現代社会の「個別文化の標準化問題」を研究しうる新しい知を創出することを目的とする。

活動内容

2019年度実施計画

1.【理念的フィールドにおける研究活動】
本研究プロジェクトでは、空間的概念から「政策」などのフィールドを「理念的フィールド」としているが、本年度は、昨年度に引き続き、公益法人(チャリティ)政策などの非営利政策、小規模農業政策、会計の標準化政策とともに、休眠預金活用に係わる政策が現実に動いているので、これらを含めて「理念的フィールド」として取り上げる(5月、6月、10月―3月)。
2.上記係る情報の入手や実務者との交流のために、連続研究会「日本と世界の財団社団研究会」を4月、6月、9月に開催して、実務者の参加を募り、実務者連携の情報交流ネットワークを作り上げる。また、日本の非営利組織(財団・社団)が他国とどのように異なるかについて、ヨーロッパ財団センター会議に参加(5月、パリ)、中国財団センター訪問調査(9月、北京)を行う。
3.【空間的フィールドにおける研究活動】
研究分担者の竹沢(文化人類学者)のフィールドであるフランスのフィールド現場である農業組織や非営利組織に宇田川を除くメンバーが訪れ、会計学者から見た文化人類学的方法論の限界や新展開の可能性を明らかにする(融合調査)。
4.【研究成果発表】
昨年度の成果のうち、Anthropology of Japan in Japan(AJJ、大阪 4月)、International Society for Third Sector Research(ISTR,バンコク7月)において出口は研究発表を行うとともに尾上、藤井、出口が非営利法人研究学会において発表を行う。
5.【その他】
宇田川は専攻長就任のため、エフォートが低下し、融合調査には日程的に参加できないが、単独でイタリアの協同組合について調査を実施する。

2018年度活動報告

本年の研究計画は、共同研究体制がほぼ組まれることがなかった文化人類学者と会計学者が、文化人類学者のフィールドにともに出かけることを主眼としていた。研究協力者として文化人類学者である太田心平国立民族学博物館准教授を起用し、そのフィールドである米国・ニューヨークへ、太田の他、出口、藤井、尾上の合計4人で調査を行った。アメリカ自然史博物館(米国IRC501(c)3団体)について、IRSのForm990を会計学者と面接したほかアメリカ自然史博物館の文化人類学部長、文化人類学部の職員(公認会計士資格取得者)に対する調査を行うことができた。
 同人類学部長の反応は気になったところであるが、平素、出張費の精算等で事務部門と衝突することもあり、「大変面白い研究」と評価を頂いた。とりわけ、アメリカ自然史博物館では、旅費精算の電子化が検討されているが、現在ではアナログベースの出張清算であり、用紙も持ち帰ることができた。アナログの会計資料の収集も今行っておく必要性も感じた。
 また、非営利セクター全体に影響を与える休眠預金活用についての研究を進展させ、アクション・アンソロポロジーとして積極的に係った。様々な非営利法人の会計基準が企業会計の影響を受けた損益計算書となっているのに対して、休眠預金活用のための指定活用団体の会計は役所のチェックが可能なことが理由と考えられるが、収支計算書となっていることなどの影響が、実際の活動を通じて明らかになった。
また、会計の問題をアプローチするための人的なネットワーク形成のため、公益法人を対象とした研究会を1回開催するなど試行錯誤を繰り返しながら研究を行った。

2017年度活動報告

1年目から思った以上の業績を発表し、また、反響を得ることができた。本研究は挑戦的萌芽研究(2015-2016)の後継研究であり、決定時期が夏場で1年間の期間はなかったものの想定以上のスタートが切れた。ジンバブエのハイパー・インフレーションを研究していた人類学者と公益法人会計を研究していた会計学者に研究協力者として加わってもらった。その結果、人類学者が持ち帰っていた何気ない新聞に記載されていた「未監査」の状態の決算報告書が、ジンバブエも「国際財務会計基準」に従っているはずだという認識の会計学者の常識を打ち破る重要標本であることを「発見」することができた。従来、接点がないと思われていた両学問だけにその遭遇だけで思わぬ効果が生まれたのである。
実績も順調で英国の会計学者と研究代表者による国際共著論文1本をはじめ、重要なジャーナルに論文が掲載されたほか、歴史ある「日本会計研究学会」で、会計学者と文化人類学者からなる共著論文を発表することができた。「日本会計研究学会」で文化人類学者が発表したのは初めてのことと理解している。
また、会計学の研究分担者は、MBA(ビジネス修士号)の授業において、ジンバブエの人類学者の研究やインドネシアのトーライ人貝貨貨幣についての人類学の研究を早速授業に取り入れた。また、非営利の会計を考えるときに、マジョリティである企業を前提にする見方が人類学者からはエスノセントリズムと同様の思考形態にあることがわかり、現代社会の企業中心の見方を「企業中心主義的思考」=「ビジネスセントリズム」として捉えることとした。
トランスフォーマティブ・リサーチの1つとして、研究を実施し始めたが、グローバル化を挟んで対極にあってほとんど接点のなかった両学問が出会うことでこの ような効果が出てきたことに驚いている。