国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

京都市東九条における日本人・在日コリアン・フィリピン人の関係形成についての人類学(2017-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 永田貴聖

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、「トランスナショナリズム(Transnationalism)」を含む従来の移民研究における分析視点を補い、移民が出身先の家族や友人と関係を継続することや、出自の国家・民族を基盤として関係する側面だけでなく、移住先において、状況に応じて、移住先社会のマジョリティや他の移民と関係を構築することを明らかにする。具体的には、京都市・東九条地域において日本人、在日コリアン、さらにフィリピン人移住者が関係を構築する過程を焦点とする。これらの動向に注目することは、日本国内における、日本人と複数の出自の海外移住者が関係を形成する研究の前進となる。また、海外のフィリピン人移住者研究、在外コリアン研究にも発信し、フィリピン人移民、在外コリアンそれぞれが同胞以外の人びとと関係する過程に注目するという新しい視点を導入する。

活動内容

助成事業期間中の実施計画

日本人、在日コリアン、フィリピン人の関係をフィリピン人からの関係の広がりからみる視点が重要であることは言うまでもない。さらにそれらと関連し、調査拠点である多文化交流サロン、そこに集まるフィリピン人や在日コリアンとも深くかかわっている当該地域における演劇家・芸術家の動向にも注目する必要がある。
 そして、すでに実施つつある、海外における日本研究、フィリピン移民研究、在外コリアン研究などでの研究成果の公表を実施し、特に東アジアにおける複数エスニシティ・ナショナリティ関係との比較検討を進めたい。例えば、地域内における複数エスニシティ・ナショナリティ状況の比較とフィリピン移民研究との連携を視野に入れ、韓国におけるフィリピン人移住者の社会関係の広がりに関して、題:Developing Filipino Spaces in Seoul, South Korea(4th PhilippineStudies Conference in Japan.2018年11月17日、広島大学開催)として報告を行った。2019年度は6月に開催される日本移民学会シンポジウム『移民と〈トランスナショナル〉-日本における移民研究の再考』において題「2つのトランスナショナル―フィリピン人移民研究からの視点」の報告を予定している。この中では、日本と状況が類似している部分が多い韓国におけるフィリピン人移住者が形成する社会関係群との比較を視野に入れている。

2018年度活動報告

平成30年度、本研究では、京都市・東九条地域を集住地域とする在日コリアン、日本人、フィリピン人移住者の関係に焦点を当てた。なかでも、研究計画調書などで示した3つの過程の連関性を重視しつつ、その1つについて考察した。具体的には、東九条マダンを中心として広がる社会関係についての考察である。東九条マダンは、在日コリアンの民族表現を基盤としつつも、「民族」祭りに留まらない、マジョリティである日本人、フィリピン人住民を含めた新規来日外国人移住者、障がい者などのマイノリティが集まる祭りである。この祭りはすでに20年以上続けられ、すでに本研究が注目している多文化交流サロンとも深く関係している。
 平成30年度は、本研究のテーマの中心である、フィリピン人から広がる関係への理解のため、東九条マダンへの注目を軸に置き、さらにその周囲の関連する関係について参与観察を実施した。そのうえで、多文化交流サロンでのフィリピン人の社会関係の広がりにも注目した。東九条マダンの参与観察には前年度から引き続き、協力者としてベル裕紀さんにも参画してもらった。調査方法はフィールドワークによる参与観察、社会関係の構築過程を理解するためのインタビューなどを活用し、実施した。
 さらに、追加として、今年度は東九条マダン、多文化交流サロンでのフィリピン人グループや集まる人びとの活動などに注目しつつ、それらの社会関係とも関連している東九条地域における演劇家や芸術家の動向にも注視した。演劇家・芸術家たちは当該地域で地域の日本人、海外からの移住者の子弟を対象にしたワークショップなど表現に関する普及活動を、本研究の焦点である社会関係群とも関連しながら、展開している。本研究では、前年度まで注目してきた社会関係群の広がりと深く関連していることから、その動向にも視野に入れることが必要である。

2017年度活動報告

平成29年度、本研究では、京都市・東九条地域を集住地域とする在日コリアン、日本人、フィリピン人移住者の関係に焦点を当てた。
なかでも、研究計画調書などで示した3つの過程のうちの1つを重点的に考察した。具体的には、多文化交流サロンに集まるフィリピン人たちの同施設内での活動、さらに地域の人びと(在日コリアンなど)と関係を形成することである。特に、当該地域において、多文化交流サロンに集まるフィリピン人たちが関係を形成する、在日コリアンの文化表象を表現手段として開催され、多様なマイノリティが集まる「東九条マダン」や、多文化交流サロンで活動するカトリック教会を拠点とするフィリピン人グループなどとの関わりに注目した。
調査方法はフィールドワークによる参与観察、社会関係の構築過程を理解するためのインタビューなどを活用し、実施した。特に、平成29年度は、フィリピン人たちの動向だけではなく、本研究のテーマの中心である、フィリピン人から広がる関係への理解のため、フィリピン人たちも参加している「東九条マダン」、さらにその周囲の関連する関係について参与観察を実施した。この参与観察には研究協力者のベル裕紀氏にも参画してもらった。
今年度は「東九条マダン」に積極的に参加しているK保育園との関係づくりを試みた。K保育園は多文化交流サロンの系列であり、調査対象となるフィリピン系のこどもたちだけではなく、約5か国の海外ルーツをもったこどもたちが通い、多文化共生保育なども実施されている。
そこで、本研究では、社会関係構築の状況に焦点を当てる調査の一環として、11月中旬には、多文化交流サロンの秋まつりにおいて、韓国ソウルの現代の小中学生の生活を再現する企画「ソウルこども部屋」を実施した。単にフィリピン人同士の関係だけではなく、その周囲にある多様な関係に注目することができた。