国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

農の「EU化」に伴うトランシルヴァニア牧畜の再編に関する文化人類学的研究(2017-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 杉本敦

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、「環境保全・動物福祉・食の安全」に関するEUの畜産基準の導入に対し、ルーマニア・トランシルヴァニアの牧畜民がどのような実践を行って生活を維持し、それをいかに語るのかを、文化人類学的なフィールドワークによって明らかにすることにある。
国家によって牧畜の脱生業化が推し進められる状況に置かれた山村社会と牧畜の再編について研究することで、グローバル化とローカル化の過程を問い直す。また、現代ヨーロッパの牧畜という視点から、流通を前提とした生産活動という問題をも組み込んだ新しい牧畜論の可能性を提示することを目指す。

活動内容

2018年度活動計画

2018年度は2度のフィールドワークを行い、生産現場における環境保全と動物福祉、畜産物の生産過程と流通の2つの問題に関するデータ収集を行う。M谷の農家15軒を対象とし、以下の項目についての参与観察を行い、彼らの実践についての語りを収集する。
①各農家における土地資源の種別(農耕地・採草地・放牧地・林地)、家畜の種類と頭数、生産施設(畜舎・柵・囲い・農具・搾乳機・冷蔵庫)の状況。
②家畜の健康についての考え方と管理方法、畜舎の清掃状況、薬品・栄養剤の投与状況、給餌の状況、糞尿の処理方法、堆肥への加工状況、牧草地と菜園への施肥の状況、金肥使用の有無。
③各農家における搾乳方法、生産する畜産物の種類と加工技術、畜産物の保存方法、屠畜のスケジュール、絶命方法(スタンガン使用の有無)、解体作業と食肉加工の方法、保存方法(冷蔵設備の有無)。
④加工した畜産物の自家での消費状況、親族への贈与の状況、隣人への贈り物やもてなしとしての利用状況、村民や観光客への売却状況、村内のレストランやペンションへの卸し状況、市場での直接販売の有無、工場への流通状況、EU圏外への流通の有無、畜産物から得られる収入の状況。

2017年度活動報告

本研究の目的は、「環境保全・動物福祉・食の安全」に関するEUの畜産基準の導入に対し、ルーマニア・トランシルヴァニアの牧畜民がどのような実践を行って生活を維持し、それをいかに語るのかを、文化人類学的なフィールドワークによって明らかにすることにある。
初年度にあたる平成29年度は、EUおよびルーマニアの農業政策の概要と、当該地域における実施状況を把握することを目標とした。まず、文献資料と統計資料、公式Webページの情報をもとに、特にルーマニア国内で行われている農業補助金関係の政策について明らかにした。現在のEUでは、共通農業政策(CAP)予算の減少と共に、「再国家化」・「地域主義」の傾向が強まっており、ルーマニア国内の農業政策にアレンジの余地が生まれていることが明らかになった。特に、補助金の支払い方法、支払い総額の推移、支払い対象者の規定について検討する中で、EUの有機畜産規定を満たしていない場合でも、家畜の大規模飼養者に対しては農業補助金が交付されている状況を把握した。
その後、これらの情報をもとに当該地域でのフィールドワークを開始した。集約的な調査の対象として設定した知己の農家15軒を回り、農業経営の現状と変容、農業補助金の受領状況について聞き取り調査と直接観察を行った。そこから政府による農業補助金支払いの規定と実際とに相違が存在すること、具体的には補助金受領者(申請者)・家畜所有者・土地所有者・土地利用者の間にインフォーマルな貸借関係が新たに生じつつあるという知見を得た。