国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

移民の身体ポリティクス:インド舞踊のグローバル化とエージェンシー(2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|国際共同研究加速基金(国際共同研究強化) 代表者 竹村嘉晃

研究プロジェクト一覧

目的・内容

移住はグローバル化が進む現代社会を特徴づける事象の一つである。本研究は、インド人の移民経験と彼らの身体性との関わりをめぐるポリティクスに着目し、そこに参与する複数のエージェンシーの実践と意味世界について、インド舞踊のグローバルな 受容動態と新たに生起する価値づけや意味の読み込みから総合的に研究するものである。とくに、インド舞踊がトランスナショナルに受容されるなかで、1)ホスト社会との相互交渉や文化政策を通じて〈ナショナル化/南アジア化〉する一方、2)実演家 の多国間の移動に伴って循環または〈インドに環流〉し、3)新たな人の流入による影響から〈宗教的空間に再文脈化〉され、4)かつメディアやテクノロジーとの接合を通じて変容あるいは〈新しいジャンルとして展開〉している実態について、インド・ 欧米諸国・東南アジアの事例を有機的に結びつけながら、実証的かつ全体関連的に解明することが本研究の目的である。

活動内容

助成事業期間中の実施計画

今後の研究については、シンガポールでフィールドワークを継続しながら、収集したデータの整理を行うと共に、インド・シンガポール・イギリスの共同研究者と情報を共有し、研究の枠組みを構築するための文献研究を進める。
現地でのフィールドワークでは、インド芸能を教授する機関の動向を追いながら、舞台公演や文化イベントの参与観察を行うと共に、インタビューを通じて、1)インド系移民たちのホスト社会との相互交渉、2)ナショナル化したインド芸能の歴史的経緯と文化政策との結びつき、3)芸能の新たな価値づけや宗教的空間での再文脈化、4)ニュー・メデイアやテクノロジーとの接合を通じた変容について、描写・分析する。
以上を通じて、グローバルに隆盛しているインド舞踊と移民社会におけるその多様なエージェンシーの動態をマルチ・サイト民族誌的アプローチから解明し、インド・欧米諸国・東南アジアの諸地域におけるインド系移民の身体性と文化的実践の特徴を比較的視点から明らかにするための基礎的枠組を構築する。

2018年度の活動報告

近年、世界に拡散するインド系移民コミュニティの芸能実践に関する研究が蓄積されつつあるが、それらは移民社会や実践者たちを集団として一括りにする傾向にあり、コミュニティ内の多様なエージェンシーがいかに芸能を実践・受容し、あるいは表し語るのか、さらには実践者を含むグローバルな人の移動やネットワークといかにつながりをもっているのかなど、今日のインド舞踊をめぐる複雑かつ多元的な位相に対する十全な理解が提示できていない。
本研究の目的は、マルチ・サイト民族誌のアプローチを芸能研究に導入することで、シンガポールを基軸としたインド・東南アジア・欧米諸国の動向を有機的に結びつけながら、インド系移民たちの経験やその意味世界をめぐる身体ポリティックスについて、インド舞踊のグローバルな動態とそれを取り巻く複数のエージェンシーから多角的に分析し、かつ体系的・総合的に理解することである。
今年度はインドとシンガポールで現地調査を行った。インドでは実演家たちのグローバルなネットワークと彼らの活動状況を把握し、移民社会とつながるエージェンシーの動態について描写・分析した。シンガポールでは、インド系移民社会とインド舞踊の発展に関する歴史的な経緯について文献研究を中心に進めた。とくに独立期の1960年代前半に多文化主義を啓蒙する一環として政府が主導した文化イベントのAnenka Ragam Rayattuに着目し、関連資料の収集と出演者へのインタビューを行い、インド舞踊がシンガポールの「ナショナル」なものとして位置づけられていった過程を描写・分析した。また、インド系移民コミュニティの歴史的な動態と2000年代に入ってから顕著にみられる多様な出自をもつ「新移民」の動向についても考察を進めた。