国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ヒマラヤ東部地域における輸送インフラの発展と移動する身体に関する人類学的研究(2018-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究活動スタート支援 代表者 古川不可知

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、ヒマラヤ東部の山岳地帯であるネパールのソルクンブ郡とインド西ベンガル州のダージリンを調査地に、Ⅰ.山中を移動するとはいかなる実践であるか、Ⅱ.山中の移動は当人たちによってどのように意味付けられているのか、またⅢ.輸送インフラの発展が人々の環境認識にどのような変化をもたらすかを明らかにすることである。
方法論としては、徒歩や車両あるいは鉄道によって山中を移動する人々の実践への参与観察と、ヒマラヤ東部における輸送インフラの発展史に関する文献調査によって収集したデータを、認知科学と人類学的インフラ研究の知見を援用した枠組みを通して分析する。
一般に従来の移動とインフラをめぐる議論では、歩行と機械輸送のあいだには質的な断絶が想定されてきた。本研究では徒歩から鉄道に至る山間部の移動を、技術と相互に嵌入した身体実践として捉えつつ、その展開と影響を連続性の相のもとに分析することを目指す。

活動内容

2018年度活動計画

本年度は、本研究の基礎となるデータの収集に充当する。2018年12月にダージリンにて、2019年3月にはソルクンブ郡にて、それぞれ一ヶ月程度の現地調査を実施し、残りの期間については文献調査をおこなうものとする。
ダージリンでは、本年度は山岳鉄道に関する情報収集に注力し、鉄道局にて鉄道運行に関わる全体的な状況を聞き取る。また実際に走行する車両に乗り込んで、乗客や乗員の振る舞いや山間部における鉄道利用のやり方、あるいは土砂崩れといったトラブルへの対処の様子などを観察する。あわせて登山学校や鉄道局、西ベンガル州の国立図書館などを訪れて植民地期の資料や行政文書の収集をおこなう。
ソルクンブ郡では、これまで研究代表者が取り組んできた調査の継続として、山道を歩く人々についていくことを方法論にその実践を観察する。また、首都からソルクンブ郡北部まで延伸が予定され、現在は標高2960mのタクシンド付近にて建設が進められている車道について、建設作業の様子を観察し、周辺住民のインタビューをおこなってその影響を分析する。
また両地点では、移動の中で人々が輸送インフラや周辺環境について語るやり方を記録するとともに、ダージリンとソルクンブ郡の景観写真を見せながら聞き取りをおこなうことによって、さまざまな属性の人々が持つ環境認識の相違と差異を把握する。
現在(2018年8月末)から2018年12月までは日本で入手可能なダージリン関係の資料を網羅的に読み込み、現地調査の準備をおこなう。2018年1月からはダージリンにて入手した資料の読解に着手し、2019年度前半を目処に全体の把握に努める。
ダージリンに関する文献精読と鉄道利用に関する調査の成果は日本語の研究ノートとしてまとめ、年度内に『国立民族学博物館研究報告』に投稿する。ソルクンブ郡の調査成果はこれまでのデータと合わせ、『文化人類学』に道と歩く身体をめぐる考察を、科研費基盤B「2015 年ネパール地震後の社会再編に関する災害民族誌的研究」(代表者:南真木人)の成果論集(タイトル未定)にインフラ整備と地震についての考察を寄稿する。