国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

高齢期の人間にとっての居住型宗教施設の役割:南インドの事例から(2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 松岡佐知

研究プロジェクト一覧

目的・内容

精神性を含め高齢期の人間のニーズが充足されるシステムについて、考察する。あわせて、医療や福祉関連予算が逼迫する現代において、制度 外にある地域資源活用や、非専門職や当事者同士による共助の可能性についても追求する。これにより、高齢者福祉だけでなく、社会的弱者や マイノリティを包摂する社会構築に向けて知見を提供することを目指している。このため、事例研究として、高齢化の著しい南インドにおける 、多世代共住型の宗教施設の役割について、長期フィールドワークを行う。宗教施設は、精神修業を目的とした場で、専属の介護者がいない。 生活を共有するだけでなく、自らの喜びをもたらす行為としての奉仕(Seva)やマントラの共唱(Name)、瞑想(Dhyana)などの精神修練実践を通じ て、醸成される人間関係網および、それぞれ個人の実存根拠への深い理解と高齢者の身体的および精神的な介助の必要性に着目しデータを収集 する。

活動内容

2019年度実施計画

昨年度に実施した2度目の調査により、調査対象施設を選定し、住民やスタッフとの関係構築や協力体制を整え、さらに当該施設の歴史的経緯や宗教的教義の把握、スタッフや住民の生活様式や信条について、参与観察と自由会話形式で聞き取り調査を行った。この結果を元に、具体的な調査方法を確定する。長期の調査は3週間を2回行う。一度目の調査では、居住している高齢者(65歳以上、30人程度)に対し、半構造化インタビューを行う。調査項目は以下の通り。生活機能、活動強度、他者との関係性、自己基盤との関係性、主観的な日常生活における困難・不安などである。2度目の調査において、宗教的実践、具体的な人間同士の相互扶助やりとりについて、参与観察する。あわせて、GISや簡易心拍計などで、宗教的な奉仕などの実践を含む日常生活の身体強度を測定する。この結果を、分析考察する。

2018年度活動報告

本研究の目的は、精神性を含め高齢期の人間のニーズが充足されるシステムについて、考察することにある。あわせて、医療や福祉関連予算が逼迫する現代において、制度外にある地域資源活用や、非専門職や当事者同士による共助の可能性についても追求する。これにより、高齢者福祉だけでなく、社会的弱者やマイノリティを包摂する社会構築に向けて知見を提供することを目指している。このため、事例研究として、高齢化の著しい南インドにおける、多世代共住型の宗教施設(アーシュラム)の役割について、調査を行う。アーシュラムは、精神修業を目的とした場で、専属の介護者がいない。生活を共有するだけでなく、自らの喜びをもたらす行為としての奉仕(Seva)やマントラの共唱(Name)、瞑想(Dhyana)などの精神修練実践を通じて醸成される、人間関係網および、それぞれ個人の尊厳や居場所感、高齢者の身体的および精神的なニーズとの関係性について質的量的に調査を行う。
1年目の昨年は、ケーララ州において、2度の現地調査をそれぞれ、約1ヶ月間実施した。1度目は、調査地設定のため、過去の報告者の当該地域でのフィールド調査から抽出した10施設のうち4施設においてフィージビリティ調査を行った。続く12月中旬から実施した2度目の調査では、先行する調査で選定した施設に滞在し、住民やスタッフとの関係構築や協力体制を築くことに努め、さらに当該施設の歴史的経緯や宗教的教義の把握、スタッフや住民の生活様式や信条など、聞き取りと参与観察により基礎情報の収集を行った。この結果を持ち帰り、質問票や数的データを計測する手法などの検討を行い、次年度の本調査に向けた準備が整った状況である。
この1年目の調査の結果と文献研究による考察を2019年4月に開催されるAAG(American Association of Geographers)において発表する。