国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

米国での認知症高齢者を師とする人生語り・記録の多世代協働とコミュニティ教育の展開(2018-2021)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 鈴木七美

研究プロジェクト一覧

目的・内容

認知症高齢者やその家族の生活の質の低下をどう解決するか。2005年以降米国では「認知症高齢者を決して一人にはしない」という草の根の「メモリーブリッジ」活動が急速に広がっている。その特徴は、認知症高齢者を師と位置づけ、聴き手が認知症高齢者の人生や生活を聴き取り記録することである。
本活動には若い世代が継続的に参加している。人生の物語を語り聴き、その経験や記憶を想像することは、誰もが歴史と文化をもつより広い世界に位置づけられる感覚をもつことに繋がるのか。多文化・多世代が、認知症高齢者との交流にどのような経験を紡ぎ意義を見いだしているのか、またそうした場はいかにして実現できるのかが本研究の問いである。
本研究は、高齢者のニーズを契機として全ての世代の生活環境を再考・開発するエイジ・フレンドリー・コミュニティ(AFC)に関する研究蓄積を生かし、本活動の現地調査を進め、日本で実践する条件を明示する。

活動内容

助成事業期間中の実施計画

平成30年度に現地調査を開始したコミュニティ教育の現場における調査内容を整理し検討を加えたうえで、必要とされる現地調査研究や参与観察を続行し、日本における認知症高齢者を含む多世代のコミュニティ教育に資する情報として提示できるよう成果公開の準備に着手する。
具体的には、今年度は、米国のコミュニティ教育やライフロングラーニングに関し情報収集を進めつつ、平成30年度に研究発表した内容について論考としてまとめる作業に着手する。また、国内外に関し高齢者を含む多世代協働の実践の現地調査にもとづき、それらを支える考え方や社会のしくみに関し情報と考察を加えた論考提示に向けて、情報や資料を整理する。

2018年度活動報告

本研究は、超高齢社会において、認知症高齢者やその家族の生活の質の低下をどう解決するかという実践的課題を出発点として、多文化・多世代が、認知症高齢者を含む高齢者との交流に、どのような経験を紡ぎ意義を見いだしているのか、またそうした場はいかにして実現できるのかに関する情報を、現地調査にもとづき提示することを目的としている。
本年度は、海外共同研究者や研究協力者と情報交換を行いつつ、認知症高齢者が参加する多世代協働の実践、およびその継続的運営を可能とする環境について、現地調査研究を実施した。とくに米国において進められている博物館や学校等を活用する活動において、実践者の資格や仕事のありかたについて重要な情報を収集することができた。また、日本における当該実践の応用可能性にかかわり、日本の高齢者関連施設における若い世代のボランティアおよび就業に関する情報収集を進めた。
成果公開としては、本研究に深くかかわる、高齢者のニーズを契機として全ての世代の生活環境を再考・開発するエイジングフレンドリー・コミュニティ(AFC)の研究に関し、海外共同研究者との協働的研究の蓄積を生かし、日本の過疎地域における産業振興と多世代協働に関しまとめた研究成果を公開した。この論考は、欧米都市を中心とするAFCの現状に不可欠の視座を提供するものであり、包括的環境の基盤となる仕事やライフロングラーニングを含む余暇の時間のありかたを検討するための観点を明示している。さらに、すべての世代が参加する余暇活動を支える米国のコミュニティの基盤となる考え方に関し発表し、議論にもとづき考察を深めた。