国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

触察の方法論の体系化と視覚障害者の野外空間のイメージ形成に関する研究(2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 広瀬浩二郎

研究プロジェクト一覧

目的・内容

多分野で障害者に対する「合理的配慮」のあり方の議論が始まり,障害者と健常者がともに楽しみや価値を享受できる機会の確保が求められている。とくに,視覚障害者にとっては“触る”は外界把握の方法として重要であり,触るとは何か,どのように触ると効果的なのか,触察後の延長線上にどのような空間のイメージが形成されるか,こうした問いに答える研究が必要である。本研究では,①モノの形状,大きさ,素材の質感が視覚障害者の印象,意識に及ぼす影響を通時的に明らかにし,触察の方法論を体系的に整理すること,②体系化された触察の方法論を野外に適用し,語りを交えて空間イメージの形成について検討,考察すること,の2点を目的とする。方法としては,屋内外におけるワークショップと研究会を開催し,視覚障害者と晴眼者の両者の行動記録,意識との関係性分析を行う。また,1年という時間軸でモノや空間のイメージの持続性についても検討する。

活動内容

助成事業期間中の実施計画

視覚障害者の触察を通したモノ,空間のイメージの形成の過程については,仮説的なモデルとして,Ⅰ:モノ,空間の触察→Ⅱ:モノ,空間に対する評価→Ⅲ:モノ,空間のイメージの形成,の3段階を想定できる。 ①触察対象の作製(2018年度) まず、ⅠとⅡの関係性を把握するために、触察対象とするモノの形状,大きさ,素材について検討する。また,触覚が,触・圧覚,振動覚,痛覚,温度覚などからなる皮膚感覚と,位置,動き,力,重さなどからなる深部感覚(自己受容感覚)に分類されることを考慮し,社会生活空間において一般的に用いられる多様な素材,わが国において歴史的に用いられてきた素材等を用いて触察対象を作製する。 ②触察をテーマとするワークショップの開催と触察行動の記録(2018-19年度) 上記で作製した触察対象の触察をテーマとし,晴眼者と視覚障害者の被験者各5名,補助者10名,計20名が参加する屋内ワークショップを2018年度に2回,2019年度に1回開催する。ワークショップではデジタルカメラ,ビデオによって触察行動を撮影,記録する。触察行動の分類,整理にあたっては,包み込みなどの輪郭探索と,穴への指入れ,角のつまみ・押しなどの細部探索との大分類を設けた上で,カテゴリー化された行動の時間,触察部位の順序とパターン等を記録する。なお,ワークショップには,土器や立体絵を用い,“触る”をテーマとするワークショップの主催経験者を招聘する。 ③都市域と森林域における観光体験と野外体験のワークショップの開催(2019-2020年度) 晴眼者と視覚障害者の被験者各5名,補助者10名,計20名が参加する野外ワークショップを2019年度に1回,2020年度に2回開催する。とくに,被験者の体験内容を均質にするため,都市域では観光ガイドを,森林域では森林インストラクターなどのインタープリターの案内役を招聘し,歩行を伴う体験を企画する。また,ワークショップでは,デジタルカメラ,ビデオによって行動を撮影,記録する。行動の分類,整理にあたっては,体験中の行動を時間の長さ,行動が生起する空間の質と関連づけて記録し,記号化する。 ④ユニバーサルな観光を議論する研究会の開催と公表(2020年度) 研究成果から,視覚障害者と晴眼者の両者にとって,地域の個性,魅力の発見,享受に繋がる地域資源,触察対象を整理し,接触体験を活用したユニバーサルな観光のあり方について議論する。研究会の議題(論点)は,本研究における重要な問いである「触るとは何か」「どのように触ると効果的なのか」の2つである。議論の内容は文字化して記録を残し,体系的な論点の整理,新たな視点,方向性の提示につながる場合には書籍化を検討し,学会発表等を通じて成果を公表する。

2018年度活動報告

1.2018年7月に信楽(滋賀県)の「陶芸の森」にて美術作品の鑑賞・制作に関するワークショップを実施した。
2.このワークショップの際、視覚障害のある参加者の触察行動をビデオ撮影し、インタビュー調査も行なった。
3.2019年3月に開催された国立民族学博物館の共同研究プロジェクト「『障害』概念の再検討」の研究会(於江戸東京博物館)にて、上記ワークショップの成果と今後の課題を整理し、研究分担者の山本が報告した。