国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

被災後社会の総体的研究:被災後をより良く生きるための行動指針の開発(2018-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|挑戦的研究(萌芽) 代表者 竹沢尚一郎

研究プロジェクト一覧

目的・内容

日本は大規模な自然災害が頻出するが、これまで研究者や行政関係者は将来の災害にどう備えるかという「防災」の観点から研究を重ねてきた。こうした研究や取り組みに対し、被災後に被害を軽減するために地域社会に何ができるか、復旧を実現するのに何が必要かといった、被災後社会についての研究は限られている。しかも、被災後社会の研究は個々になされただけで、統一的な視点を与えることに成功していない。その結果、災害が発生するたびに、被災者や行政関係者、支援者、研究者は手探りで対応を強いられてきた。
本研究は、東日本大震災の発生以来、ボランティアや研究者として被災後社会の支援と調査にあたってきた研究者が、災害後に人びとがとった行動を状況ごと、行為者ごとに詳細に記述する。その上で、そこにおける問題点や改善点、教訓等を明らかにすることで、災害後に望まれる地域社会や支援のあり方を記した指針を作成することを目標とする

活動内容

2019年度実施計画

本研究は、被災後に望まれる地域社会のあり方や支援のあり方を、ある種の指針の形で明記しようとするものである。それにあたっては、いくつかの手順と、研究分担を明確化しながら実施する。
本研究に参加する各研究者は、東日本大震災の発生後に被災地で研究や支援を行っており、そこで得られたデータをもとに、さまざまなアクター(被災者、地域住民、行政関係者、支援者、研究者など)がどのように行動したかを、詳細に記述することを最初の目標とする。また、それにあたってデータの不足が明らかになった場合には、岩手県をはじめとする東日本大震災の被災地で調査を行うことで、補足的データを獲得する。
被災者や支援者の行動を記述するにあたっては、被災後の状況を時間軸に沿って次の局面に分け、多くの事例にもとづいて記述する。1.被災直後:被災者は災害から逃れるためにどのように行動したか。2.被災後3日間:被災直後の混乱のなかで被災者はどう行動したか。3.被災後3週間:被災者は避難所でどのように生活を組織したか。4.被災後3ヶ月間:被災者は避難所でどう生活を組織し、どう退去の準備をしたか。地域住民、行政関係者、ボランティアはどう係わったか。5.被災後3年間:災害関連死や被災者の孤立を防ぐために行政と地域社会はどう取り組んだか。
本研究は被災後の社会を総体的に記述しようとするものであるため、4人の研究者の間で以下の分担を実施する。1.竹沢尚一郎(社会人類学・コミュニティ論専攻)、全体のまとめ、地域社会は被災後にどのような役割を果たしうるかの研究。2.黒崎浩行(宗教学・ボランティア行動論専攻)、宗教者や宗教施設が、被災者の支援や被災後の復興にどういう役割を果たしうるかの研究。3.菊池義浩(建築学・地域計画論専攻)、学校と地域社会のあいだにどういう関係が望ましいか、復興計画の策定にあたってどういう課題が出てきたかについての研究。4.伊東未来(文化人類学・ボランティア論専攻)、ボランティアがどのように被災者の支援に貢献できるか、地域社会と文化はどう関係するかの研究。
本研究はこれらの分担や手順に沿って、被災後のさまざまなアクターの行動を記述した上で、そこでどのような問題が具体的に存在したか、その解決のためには何が必要だと考えられるかを比較し検討する。それをもとに、被災後に望ましい地域社会のあり方や支援体制のあり方とは何かを明確化する。そうした被災後の望ましいあり方は、被災前に準備しておかなくてはならないものであるから、その観点から情報の発信に努める。本研究において、これまで個別になしてきたそれらの知見と成果を総合することで、従来わが国ではなされなかった、学術的意義と実践的な意義の双方を備えた研究成果が生み出されることと期待される。

2018年度活動報告

本研究は、大規模災害が生じたあとの社会的状況を「被災後社会」の名でとらえ、被災者、行政機関、地域住民、支援ボランティア、研究者等、「被災後社会」に関わるさまざまなステークホールダーの行動や意識を総合的にとらえることで、将来生じるであろう災害への対処法を明らかにすることをめざすものである。本年度は本研究の最初の年度であるため、最初に全研究者が集まって研究会を組織し、各自の問題意識のすり合わせや、今年度の研究実施計画について話し合った。本研究は、人類学、宗教学、建築学、社会学など、専門分野を異にする研究者からなる研究であるため、各自の問題意識や研究内容にかなりの幅があることが確認された。そこで視点を統一するより、さまざまな視点を生かしながら研究を遂行することを確認した。
竹沢は岩手県釜石市で、商店街を中心に被災後の社会のあり方と行政組織との関係を中心に聞き取りを中心に研究し、災害後に解散した商店街や、外部企業との連携によって再建した商店街など、さまざまなケースがあることが明らかになった。その違いがどこから来たかを明らかにすることの解明を、現在めざしている。
研究分担者の黒崎は、福島県いわき市や浪江町、岩手県釜石市や大槌町で調査を行い、被災後の宗教者の行動について新たな知見を加えることができた。菊池は宮城県山元町での研究を継続すると同時に、岩手県宮古市や大槌町で調査を行い、復興のための地域社会や学校、行政の連携について新たな理解を得た。伊東は、福島から全国に避難している自主避難者の行動パターンを明らかにするとともに、彼らに対する支援者の取り組みや活動内容について分析した。
今後は、これまでに得られた知見をより広げかつ深めていくために、本研究に欠ける他分野の研究者との研究会や共同研究を実施していく予定である。