国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

社会変化と民俗特有の病いの変容:韓国と台湾の産後の病いに対する比較研究(2019-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|研究活動スタート支援 代表者 諸昭喜

研究プロジェクト一覧

★2020年4月1日転入

目的・内容

本研究は社会的な変化に直面した病いの代表として東洋医学上の産後の病いにフォーカスを置いて、韓国と台湾の二つの病いの実態を比較する。二つの社会の比較研究を通じて、産後に適切なケアを受けられなかった女性がかかる産後特有の病いの語りを通じて明らかになると予想されることは、レイヤー①:個人)女性の経験からくる苦しみのidiom、文化的価値観、文化的表現の検討、女性が感じている症状、苦悩に焦点を当て個人から解釈される様相、レイヤー②:医療文化)東洋医学の置かれた位置づけとこの病気との関係、西洋医学との関係(未来)と植民地経験(過去)の2つに引きずられて、現在の東洋医学が存在している様相、レイヤー③:社会環境) 少子化などの現在の社会の変化からくる出産への注目と、それが産後の病にもたらす影響、である。

活動内容

2020年度実施計画

韓国の調査については、予備調査のインタビュー対象者にオンラインで追加のインタビューを行う予定である。また、漢方産婦人科専門医院において治療法、患者の特性を継続して調査し、若い世代の患者に対してインタビューを実施する。台湾の場合、産後養生の理論と養生施設の設置、養生食の基礎を作った人物に関する文献調査を行う。そして、現地の研究補助員と漢方産婦人科専門医院の専門家、産後のケアの専門家、実際の患者や、女性を対象として、1次はアンケート調査を実施し、2次はオンラインでのインタビューを行う計画している。9月の台湾人類学会での発表を含め、査読付きの学術雑誌に成果を論文として投稿する。また、内容を発展させ、新たに得られた知見を活かしながら、学術図書の刊行を計画している。

2019年度活動報告

2019年度は、韓国と台湾を対象として、地域選定及び予備調査、資料調査を行った。具体的には、伝統医学の病いがバイオメディカルなパラダイムとの競合関係の中でどのように変化するかを分析することを目的として、両国の歴史、近代化と都市化、医療システム、グローバル化における漢方の立場、家族構成、人口政策や少子化への対策、出産と産後ケアの状態などの基本情報について文献調査を実施した。韓国での調査に関しては、奈良女子大学の倫理審査を受審し、承認後にインタビュー依頼を開始し、2019年8月から12月の間に3回の予備調査を行った。これまでの高齢者に対する調査と比較するため、若い世代とその治療者に対する調査を主に行い、調査結果については韓国で研究会で2回発表した。この内容は韓国医療人類学研究会の編集の本で来年出版される予定である。台湾については、東洋医学に起源をもつ台湾の「風湿」又は「月内風」との比較研究の初段階として、今年度は主に文献調査を行った。