国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

社会的記憶の観点からみたアンデス文明史の再構築

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 関雄二

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、南米の太平洋岸に成立したアンデス文明を対象に、権力と社会的記憶という分析視点と分野横断的な手法を南米ペルー共和国における考古学調査に導入することで、古代文化の交代期における権力の生成を追究し、アンデス文明史の再構築に取り組むことにある。
従来のアンデス文明研究では、文化の交代期、滅亡に関わる議論が少なく、本研究では、過去の社会に対する歴史や記憶の統御という斬新な切り口を導入することで、新たな文化変遷の様相を捉え、アンデス文明論の再構築を図ることが可能になる。
これにより、従来、経済的基盤の解明に重きを置いてきた史的唯物論から脱却し、イデオロギー面を重視した新たな文明論の展開が期待できるとともに、文明を担った人々の歴史観、記憶の観点という人間の主体的行為に立脚した文化変遷の過程が明らかになる。

活動内容

2020年度実施計画

令和2年度においては、7月に本研究参加者全員で全体会議を開催し、問題意識を共有する。
次に8月より9月まで、調査地の乾季を利用し、全員でペルー北高地パコパンパ遺跡及び周辺地域で現地調査を行う。考古学的調査・分析に携わる申請者、研究協力者、および海外共同研究者4名は、ほぼ全期間現地に滞在するが、動物考古学、自然人類学、同位体分析、地質学を担当する研究分担者2名、研究協力者1名は、比較的短期間の現地滞在となる。
実施する研究内容は、ミクロレベルの作業として、①遺構分析を通した社会的記憶の構築と権力形成との関係の追究および、②儀礼分析を通した社会的記憶の構築と権力形成との関係の追である。
前者は、空間の反復的利用に注目し、建造物に対するアクセスの同定、建築材の時期同定、周辺の景観の改変過程など可視的な証拠を追究することを通して、それが社会的記憶構築に果たした役割を析出するものである。
後者の作業は、出土する土器などの遺物分析、とくに遺物に表現された図像とその時期的変化に注目することを通して、反復的に行われる儀礼行為を追究するものである。また動物考古学や同位体分析により、儀礼の場で消費された動植物の同定ばかりでなく、その生息環境や入手時期(狩猟時期や儀礼開催時期)などについて詳しい情報が入手し、さらには、被葬者の身体加工(頭蓋変形)、墓の位置、構造や副葬品、さらには埋葬後に施される追悼行為にパターンが存在するかどうかを検証し、被葬者を葬った集団やリーダーらによる社会的記憶の操作の様相に迫る。
これと並行して、日本国内(令和3年2~3月)において全員参加の研究会を公開で開催し、成果を共有する。当該年度の最終的成果は、翻訳の上、ペルー国文化省に提出するほか、各自論文、国内外の学会等で発表する一方で、マクロ・レベルの作業としては、考古学分野における世界最大の研究集会である国際考古学会議(プラハ)において研究発表を行う。さらに、海外共同研究者と、首都リマ市においてワークショップを8月~9月に開催する。