国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

南アジアのポリフォニー民謡に関する音楽民族学研究:インド・マニプル州ナガを中心に(2020-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 岡田恵美

研究プロジェクト一覧

目的・内容

インド北東部ナガランド州とマニプル州には,モンゴロイド系の山岳民族ナガが暮らす。その居住区は第二次世界大戦中にはインパール作戦の戦地となり,戦後は独立闘争が激化し,インド軍による軍事弾圧はナガ社会を半世紀以上苦しめた。2011年に両州への外国人の入域規制が緩和されたことを契機にナガランド州で調査を実施したところ,南アジアにおいて極めて稀少な合唱様式の民謡が伝承されていることが明らかとなった。
本研究では第一に,マニプル州に暮らすナガの民謡の音楽的構造や社会文化的脈絡を調査・分析し,ナガ社会における歌の機能と協働性について解明することを目的とする。ナガが多数派を占めるナガランド州では,近年は民謡に対する再評価や,音楽を媒介にローカリティが再生産される様相が顕著である。本研究では両州の比較を視野に入れながら,民謡の伝承状況や歌唱文化に対する世代間の意識を明らかにすることを第二の目的とする。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

本研究では,4年間の研究期間中,マニプル州のナガが多く居住する7地域で計6回の現地調査を実施する。マニプル州には15民族のナガが暮らすが,中でも人口の多い7民族(マオ,マラム,ポーメイ,タンクール,カブス,カチャ,アナール)を対象とする。調査では,情報提供者の許諾を得た上で,民謡の実践や教習・伝承の場を録音・撮影し,民謡やその伝承に対する世代間の意識を考察するため,幅広い年齢層にインタビューも行う。調査で得た音源・映像資料から民謡のレパートリーを緻密に採譜し,詩型・歌詞の分析,ポリフォニックな構造や協和音を生むメカニズムについて解明する。
第3回調査では,元来,定住民であったナガとは異なり,過去にナガと民族衝突した移動民のクキも同時に調査し,比較的手法からナガの民謡世界の独自性を抽出する。今回の調査地も山岳地帯のため,悪天候や道路状況による調査の遅れも想定し,第6回は追跡・補完調査とし,そこで調査協力者・情報提供者に可能な限り多く,編集映像や研究成果資料をフィードバックする機会を設ける。
本研究の成果は,所属する日本南アジア学会や東洋音楽学会での映像作品発表や論文投稿と併せ,令和3年と5年開催の国際学会でも発表し,研究途上であった南アジアのポリフォニー民謡について,世界の音楽民族学者に発信する。最終年度には,申請者が積み上げてきたナガ音楽文化研究の集大成として,ナガの音楽民族誌を出版用原稿として完成させる。著書の出版やシンポジウムの主催を通して,一般社会にも広く研究成果を発信する。