国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

20世紀前半ペルシア湾奴隷制に関する歴史民族誌的研究(2020-2024)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 鈴木英明

研究プロジェクト一覧

目的・内容

18世紀最末期から20世紀前半は奴隷制が世界各地で廃止されていく奴隷廃止の世界的共通体験が醸成された時期であった。これは、人間が各地で作った類似の制度を世界規模で廃止していくという経験を人類に初めてもたらした。しかし、奴隷廃止はこれまで各国史のなかに個別に位置づけられ、奴隷制/ポスト奴隷制のもとを生きる人々の実態は十分に解明されてこなかった。特に環インド洋の諸社会の場合、奴隷はホスト社会への同化を強く求められていたとされる。そうであるならば、奴隷制がなくなるということは、奴隷にとって、「自由」を手に入れた出来事以上の意味を持ったはずである。以上を踏まえ、本研究の目的とは、奴隷制のもと、人々がどのように生き、その制度がなくなる中、人々はそれにどのように対応し、奴隷制がなくなった後の新たな世界を生きていったのかを、20世紀前半のペルシア湾を事例にして明らかにすることである。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

本研究は5年の期間で行われる。その最終的な目標は20世紀前半ペルシア湾における奴隷制に関して民族誌的に解明することである。
初年度については、まず、本プロジェクトにおける主要史料である奴隷解放調書に関する資料性について明らかにし、それを論文として刊行する。また、英国図書館、英国立公文書館、印マハーラーシュトラ州立文書館等の未収集の証言を集める文書館調査、証言に登場するペルシア湾各地の街区等について現地調査も初年度に限らず、およそ4年度目まで実施する。それゆえに、各年、旅費を計上している。感染症流行などに伴う渡航可否など、状況に鑑みて、収集の作業は4年度目までには完成させることを目標とする。また、国内学会、研究会での報告にも旅費は充てられる。最終年度については海外での報告を考えている。各年度に計上している物品費は主として書籍購入(消耗品扱い)に充てられる。関連書籍の刊行を想定し、その都度最新の研究状況を正確に把握するためである。また、やはり各年度に計上の人件費は英文校閲に対する謝礼を想定している。
2年度目、3年度目については、資料収集も踏まえながら、ミクロなアプローチによる証言分析を行っていく。4年度目はデータベースに基づくマクロなアプローチからの分析を行い、5年度目にはモノグラフの執筆に専念できる状況を構築する。 である。