国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

民族誌と統計解析の手法による博物館職員の働きがいと職業意欲の解明(2020-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 太田心平

研究プロジェクト一覧

目的・内容

博物館学では、収集や展示の主体(研究職員や外部協力者)と客体(来館者や地域社会)という枠組みに止まらず、多様な活動と行為者、その相互関係も考慮しうるような、研究の進展が求められてきた。だが、研究職員以外の職員がどんな希望や不満をもって博物館の活動に参与しているのかは、いまだ未開拓の学問的課題だといえる。博物館は比較的小規模の事業体で、研究職員以外の職員の働きも、意欲次第で、収集、研究、展示、教育などの内容や質に直接的、間接的な影響を与えるものなのにである。
本研究では、これまでに構築した調査や分析の方法、国際ネットワークを活用し、質的研究と量的研究の両面から、サンプルとなる日米韓の博物館の職員の職業意欲や働きがいの違いを明らかにする。また、企業、教育機関、NPOなどに関する既存の研究と結果を比較することで、労働現場としての博物館の組織行動モデルを抽出し、そのエンハンシングに寄与する。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

本研究では、第一に、日本、米国、韓国の3ヵ国からサンプルとなる博物館を数館とりだし、それぞれの職員等の組織行動について質的調査をおこなう。サンプルは、本研究の研究代表者が在籍ないし外部協力者を務める博物館を軸とし、それらと連携する博物館からも選定する。サンプルとする博物館からは、それぞれの研究倫理規定も加味したうえで、調査開始前に書面による同意書をえる。質的研究でおこなうことは、それぞれの博物館に身を置いてその活動に参加しながら、そこで働く人びとに対して参与観察法とインタビュー調査法にもとづく民族誌調査を実施するということである。これにより、職員たちがどのような職場の人間関係をもとに行動し(ないし行動できず)、労働の価値を見出し(ないし見出せず)、働きがいや働きづらさを感じるのか、またそれらが博物館の活動(研究、展示、教育など)にどう影響するのかを、それぞれ明らかにする。
第二に、同じ3ヵ国にある博物館からより多くのサンプルを設定して、質問紙調査による量的調査をおこなう。ここでは、質問紙への記入をもって回答者の同意や協力をえられたものとみなせるよう、十分な推敲を経た鏡文を質問紙に添付する。質問紙としてまず用いるのは、組織行動論で国際的に使われてきた「ロッタリー質問紙」であり、これにより各国の博物館職員の職業意欲や働きがいに関する数値データを得る。この数値データを統計分析し、国家間に比較することにより、3ヵ国の差異を明らかにする。また、すでに公表されている各国の他業種(企業、教育機関、NPOなど)の解析結果や、その解釈結果と照らし合わせることで、各国の個別性にとらわれない博物館職員の組織行動モデルを抽出する比較する。なお、量的調査と統計解析は、国内外の研究協力者と協力しあっておこなう。このチームワークは、調査の効率化や解析の精緻化に役立つだけでなく、回答済みの質問紙には該当する博物館の職員と面識がない者しか目にしないように出来るため、サンプルとなった博物館や個人のプライバシーを守るためにも有効である。
以上の量的研究と質的研究の結果を統合的に解釈することにより、最終的には、博物館職員の組織行動、つまり相互作用的な働きの特徴をモデル化して学術的に整理する。本研究の中間報告は、学会での口頭発表やポスター発表、国内外の学術誌での論文公刊といった形式により、逐次的に発信していく。これによって調査や分析や解釈の方法をさらに洗練させ、研究に反映させていく。なお、本研究のサンプルとなった博物館や博物館職員の個別名は、いかなる場合にも特定されないように、データの収集、保管、分析、解釈、発表のすべての過程で、民族誌学における匿名化方法や統計学におけるローデータ非公開の原則を貫くものとする。