国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ケアから見たベルリンのネイバーフッドに関する民族誌的研究(2020-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 森明子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、ベルリンのインナーシティのネイバーフッドを、ケアという視点から記述し分析する。ネイバーフッドは1970~80年代にこの地区の社会運動を牽引するスローガンだった。現代のネイバーフッドは、当時のプロジェクトに由来するものがある一方で、その活動内容は変化している。本研究では、それを公的なものと私的領域の関わり方という観点からとらえ、その推移のなかでケアの発動がどのように起こっているのか記述する。ケアは、自立した近代的個人のモデルから逸脱する事象に注目する議論である。そこでは、境界を侵犯し、身体に介入し、制度からはみ出す行動が追認される。その場その場でセッティングを調整し事態を修復するケアの記述と分析を通して、現代都市の市民的共同性として想像されているものは何か、それはどのようなかたちで実現されるのか見通すことを目的とする。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

研究は、現地での調査、調査資料の整理・分析、記述と中間段階での成果発表から構成される。現地での調査は、4年間の研究期間中、各年度に1か月程度をあてる。本研究の研究費の多くは海外現地調査にあてるもので、設備備品の購入予定はない。現地での調査活動は、インタビューを中心とするフィールドワーク、文書やデータを含む資料の収集、現地研究者との意見交換を主たる内容とする。国内では、現地調査で収集した情報や新たな知見を、整理・分析・考察する。これまでに蓄積した調査データを、本研究のテーマに即して再分析することも重要な課題である。国内にある資料の収集や国内研究者との意見交換も行う。
研究年度ごとに、以下の達成目標を設定する。初年度(2020年度)は、第一段階として、これまでの調査研究で蓄積したデータを、本研究テーマに沿って再解釈し整理するとともに、本テーマに関わる現地の活動集団とファーストコンタクトをとることを第一の目標とする。移民を含む住民のライフヒストリーの読み直し、種々の活動グループや行政の発行するリーフレット・ブックレットの再検討をしながら、問題点の整理と深化をはかる。現地調査では、これまで直接のコンタクトをもっていなかった街区のアソシエーションの調査に着手する。また、国内の文化人類学および隣接分野の研究者との意見交換もすすめる。ただし、新型コロナウィルスの状況如何によって、調査日程について調整が必要になった場合には、オンラインを利用した情報収集も含みながら、柔軟に対応する。
第2年度(2021年度)は、現地調査において、街区のアソシエーションを対象とした調査の進展をはかることを主要な作業目標とする。ひとつのアソシエーションについて、複数の当事者とコンタクトをとり、複数回のインタビューを行う。また、ベルリンとウィーンでコロッキアムを開催し、現地研究者と中間段階での意見交換を行う。
第3年度(2022年度)は、前年度にひきつづく現地調査を進展させ、「ケアの論理」「ケアの倫理」という問題系について現地のコンテクストで検討する。前期に日本文化人類学会において研究発表し、後期には、国内で開催される国際シンポジウムで発表し、内外の研究者と議論することをめざす。
第4年度(2023年度)は、最終年度として、海外調査で予定しながら到達できていなかった項目について調査を補いながら、研究全体の総括を行う。この年度に、海外で開催される国際学会で研究発表することをめざす。民族誌の完成とその公表は研究期間終了後になる。