国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

近世近代移行期における教団未満の宗教者と新宗教をめぐる史的研究(2020-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究 代表者 石原和

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、近世近代の時代と教団の枠組を超えた民間宗教者を研究対象とし、新史料に基づきながら解明すること、それに基づき教団未満の状態の信仰体の諸相を近代の宗教運動の総体の中に捉え、歴史的に位置づけていくことである。これにより、新宗教運動研究の新たな可能性を示す。さらには、近世・近代の宗教史の成果を接続し、教団史を繋ぎながら近代宗教の現場を解明するこの研究を、近代宗教史の一部分の解明に留めることなく、その全体を照らす日本宗教史像の再構築への新たな視座として提起することを目的とする。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

まず、次の二つの資料群を中心に、研究活用基盤形成のための一次資料の整理を進める。①月見里神社・稲荷講社史料(静岡県静岡市):本史料群は近代の宗教者の多様な活動と役割が窺える貴重なものである。神社神主でありながら、それとの重複が禁止されていた呪術的な宗教活動を講社という組織を通じて行った長澤雄楯の活動や、のちに大本教主となる出口王仁三郎が宗教活動の認可を求め、稲荷講社の所管教会という法外の形態で活動認可を得た新宗教の発生史が窺える。[2020-2022年度]②田村神社史料(滋賀県甲賀市):本史料群は、講社の移管問題、社格昇格関連の史料を含み、宗教者の受け皿となる神社とその付属講社の地位の変動、管理組織の移動が把握できる。既に着手しているが資金難のため仮目録刊行前に中断。本研究で2020年度末に目録刊行予定。[2020年度]
上記の整理及び刊行史料、先行研究に基づき次の四つの事例研究を行い、理論化を進めることで、日本宗教史上への位置づけを行う。①近代宗教法制下における講社認可体制の把握:本研究の前提となる近代宗教法制の視点から、近世の宗教者統制システムである本所論との連続性、近代の宗教者管理の主体である地方庁・教団と警察行政に注目して、民間宗教者の講社活動、宗教活動の諸相を解明する。[2020年度]②初期大本の研究:月見里神社・稲荷講社史料に基づき、信仰組織の流動的な境界領域、活動根拠獲得のあり方、術を紐帯とするネットワークという視点から、初期の出口王仁三郎の信仰集団を分析し、新宗教の発生を明らかにすることで、新宗教史の再構築を図る。[2020-2022年度]③神社下の講社と宗教活動:月見里神社・稲荷講社史料、田村神社史料に基づき、神社と講社の関係、宗教者の属性の複数性を分析する。具体的には、明治15年以降、国家祭祀に限定され、宗教活動が否定されたはずの神社の宗教活動とそれを可能としたシステムとして講社に注目し、その宗教史的意義を解明する。その上で、講社と新宗教の関係を解明する。[2021-2023年度]④仏教系講社と新宗教運動:講社結集のもう一つの主体・仏教教団下の宗教者に注目する。曹洞宗管下で活動した如来教を事例として、神社下あるいは教派神道下の宗教活動とその公認のあり方の比較を行い、神道系、仏教系の講社の特徴を析出し、その差異の新宗教運動への影響を解明する。[2022-2023年度]
上記の成果を国際宗教史学会(IAHR)や日本宗教学会等で報告し、論文化する。