国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中等教育脱落者の少年少女と社会参加-インド・スラムにおける仲介者の働きに着目して(2020-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究 代表者 茶谷智之

研究プロジェクト一覧

目的・内容

世界各地では、難民や移民、都市貧困層など社会的排除が強まり、権利が権利として保障されない人々が増加している。いま注目されるのは、そうした人々が国家や市民社会、グローカルな市場経済と関わりながら、人生機会の拡張をめざす動きである。本研究はこの動きが顕著なインド・デリーのスラムにおいて、学校教育から脱落した若者の社会参加のプロセスを描写・分析する。その過程において、差別や偏見、構造的暴力を受けるスラムの若者と社会をつなぐ仲介者がいるか否か。それは代議制を通じて希望を実現することが難しい若者にとって重要な問いである。高等教育進学率の低いインドでは、初等教育の普及に伴い、中等教育脱落者が増加している。本研究は、誰かに頼らなければ社会参加が難しい中等教育脱落者の少年少女にとっての仲介者とその働きを明らかにすることで、一票を持たない子どもの生活基盤の維持・向上を左右する仕組みの解明をめざす。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

本年度の上半期は、主に次の三点をめぐって文献研究を進める。第一に、中等教育脱落者の実態を把握するため、現代インドの社会経済状況に関する文献、およびインドの中等教育をめぐる文献調査を行う。第二に、フィールドワークにおける調査項目を具体化するため、若者論、都市論関連の文献に関して研究を進める。第三に、本研究をスラム研究の国際的な潮流に位置づけるための理論研究として、スラム研究関連の文献調査を行う。これらの文献調査を行うために、所属機関の蔵書を利用するが、図書館に所蔵されていない文献は新規に購入する予定である。
本年度の下半期は、上半期の文献研究で得られた成果を基礎として、インド北部・デリーにてフィールドワーク(7週間)を行う。スラムでのフィールドワークに先立ち、デリーにある国立教育研究訓練協議会(National Council of Educational Research and Training)に赴き、インドの中等教育の専門家とのネットワークを築くとともに、中等教育制度に関する資料収集を行う。
その上で、中等教育から脱落した少年少女の生活世界をフィールドワークを通して明らかにすることをめざす。具体的には、まず少年少女が中等教育から脱落した経緯を明らかにするため、本人や家族、教師にインタビュー調査を行う。その際、本人の属性や特徴、保護者の就業状況や家庭環境、カリキュラムや試験制度、クラスの友人や教師との人間関係などを明らかにする。
次に日常生活の変化を明らかにするため、少年少女が中等教育脱落後に誰とどのように過ごしているのかについて参与観察を行う。具体的には、ダンスやスポーツ、非行や犯罪など脱落後の行動や居場所、仲間関係の変化を明らかにする。これらの調査を通じて、スラムの若者が中等教育から脱落する前後における生活世界の様相の変化を明らかにする民族誌データを収集する。なお、調査対象である若者に対しては、研究目的や内容を事前に説明し、同意を得た場合に限り調査を実施する。計上した外国旅費はこれらのフィールドワークに使用する。
帰国後は、フィールドワークで得られたデータの整理を行う。特に民族誌データの分類整理を行い、検索、抽出などを容易にすることで今後の研究の基盤を構築する。以上の文献・資料調査およびフィールドワークで収集したデータを保管するために、外付けハードディスク、スキャナーを購入予定である。