国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

現代アンデスにおける寄進と宗教性に関する研究―奉納品と教会記録の分析を中心に(2020-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究 代表者 八木百合子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、現代のアンデス地域でみられる宗教実践の一つとして、寄進に注目し、モノを介して立ち現れる人びとの宗教性の問題について検討をおこなうものである。具体的には、近年、数多くの奉納品が集まるペルー南部クスコ市の教会に納められた奉納品と個々の寄進者に関する調査・分析をつうじて、当該地域における寄進の動向と人びとの信仰の様態について明らかにしていく。その際、民族的・歴史的にさまざまな背景をなす個々の主体の営為に目を向けることで、従来の形式化された認識枠組み(白人/混血/先住民、キリスト教/土着宗教)を相対化し、当該社会の人びとの多元的な宗教性の諸相の解明を試みる

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

本研究では、ペルー南部クスコ市の3つの教会を対象に、そこに納められている奉納品とそれにまつわる情報について調査を実施する。対象となる教会は、いずれもクスコ市にあるが、それぞれ教区住民の構成や歴史的な背景が異なる地区に位置する。この3つを扱うことで、多様な民族や社会集団から構成されるアンデス地域の人びとの宗教性をさまざまな角度から分析・考察するのがねらいである。
具体的な焦点として、(1)アンデスにおける寄進の動向:教会の聖具室に保管されている奉納品のなかでも、とりわけ宗教性との関係において重要なケープ(宗教刺繍が施された衣装類)を中心に、それらの物質的な情報の記録をおこなう。また、財産目録等の教会記録も参照することで、奉納者に関するデータを集め、これらをもとに寄進の動向について把握する。(2)奉納品と寄進者の関係および寄進の背景:奉納品と実際の寄進者の関連づけをおこない、個々の寄進者に関する情報のほか、彼らがどのような理由や状況で寄進をしたのか等について聞き取り調査を実施する。これをもとに、寄進の背後にある社会・文化・経済的な背景についての考察をおこなう。
現地調査は、研究期間の1年目から3年目まで、1年毎に順に拠点(教会)を変えながらおこなう。調査は主に、①教会における奉納品の記録、②奉納者への聞取り、③教会記録の精査からなる。現地調査を含めた、各年の計画は次のとおりである。
【1年目】前半は国内において、関連する先行研究の読み込みをおこなうほか、現地の関係者と連絡をとりながら、調査に向けた準備と調整をおこなう。スムーズに調査がすすむように、対象となる全ての教会における調査の承諾を得るとともに、キーパーソンについての情報を得る。1年目の調査は、同市で最も権威と伝統のあるA教会で実施する。【2年目】前年のデータを踏まえつつ、A教会の関係者の継続的な聞取りをおこなうとともに、同市のなかでは大衆的な人気を誇るB教会の調査に着手する。また、前年の調査の分析結果を春に開催される日本ラテンアメリカ学会で発表するほか、秋には国際アメリカニスト会議においても報告をおこない、スペイン語の報告論文を執筆する。【3年目】調査の仕上げとなる3年目は、先行する二つの教会に関する補足的な調査をおこないつつ、同市の周縁に位置するC教会で重点調査を実施する。また、前年までの調査分析から得られた知見を日本文化人類学会において発表するとともに、国内の学術誌への投稿もおこなう。【4年目】最終年度は、これまでの調査研究をもとに、現地ペルーにおいて研究成果の発信をおこなう。そのために、関係機関の協力のもと、関連分野の研究者を集めた国際シンポジウムを組織する。また、ここで得られた海外の研究者の意見や議論等をふまえ、本研究課題を締めくくる最終成果として論集の出版を目指す。