国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

チリのマプーチェ先住民組織における民族医療に関する文化人類学的研究(2020-2023)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究 代表者 工藤由美

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、マプーチェ医療を受診中の患者、元患者、患者家族、さらには公立診療所の西洋医療スタッフ、マプーチェ医療スタッフなどからの聞き取りと参与観察に基づいて、①チリの首都圏における公的医療としてのマプーチェ医療の成功の医療的側面と社会的側面について、その内実を明らかにし、②その分析を通じて、マプーチェの医療職能者による霊的診療と薬草治療の効果について、霊的側面を含めてこの民族医療を評価する方法を提案すること、また、③医療の持つ社会関係構築力について、マプーチェ医療関係者とチリ人の間の、医療の場だけでなく医療以外の場における交流にも焦点を当て、明らかにすることを目的とする。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

本研究の遂行において、最重要の基礎資料となるのは現地調査によってのみ得ることのできる、マプーチェ医療を受診中の患者、元患者、患者家族、さらには公立診療所の西洋医療スタッフ、マプーチェ医療スタッフなどからの聞き取りと参与観察の記録である。研究計画調書作成時には計画期間4年の全ての年度において現地調査を実施することを計画していた。しかし、現状は新型コロナウィルスの蔓延により、いつの時点で現地調査が可能となるのか、まったく見通しが立たない状況である。従って、来年度以降に可能となっている保証もないが、現地調査は来年度以降に実施することとし、今年度は見送ることにする。また、それに伴い助成金の使用計画も日程の面で一定の変更が必要である。以下、各年度の具体的実施計画を記す。
令和2年度:次年度以降の現地調査を密度の高いものとすべく、以下の3点に研究の重点を置く。①マプーチェ医療に関するすでに取得している資料を本研究の目的に沿って再整理し、次年度以降の調査項目を明確化する。②調査対象であるマプーチェ組織と密に連絡を取り、利用予定の資料の準備等の依頼、マプーチェ医療の現況について情報収集すると同時に、一般的な現地情報を絶えず更新する。③医療人類学、医学領域における医療の評価について文献研究を行う。
令和3年度:8月~9月に実施予定の3週間程度の現地調査と、その資料の整理が主要な活動となる。現地調査では、マプーチェ医療の診療日には現在受診中の患者、患者家族を中心に聞き取りを実施し、診療日以外は、カルテの閲覧、過去に受診していた患者、患者家族の聞き取り、スタッフ等への聞き取りに当てる。チリ人人類学者との情報交換、国立図書館での情報収集も実施する。帰国後は、収集した資料の整理に当たるが、その際も必要に応じて現地との連絡を取り、不明確な情報を残さないように努める。
令和4年度:国内学会(日本文化人類学会を予定)での発表、8月~9月に実施予定の3週間程度の現地調査と、その資料の整理が主要な活動となる。現地調査の実施内容は前年度に準ずることとする。チリ人人類学者との情報交換、国立図書館での情報収集、帰国後の資料の整理も、前年度と同様に実施する。
令和5年度:国際学会(未定:ICAかFIEALCを考えている)での発表、8月~9月に実施予定の3週間程度の現地調査と、その資料の整理が主要な活動となる。学会発表のテーマは本研究の3テーマのうちの1つとなる予定。現地調査、チリ人人類学者との情報交換、国立図書館での情報収集は前年度と同様に実施する。全体の資料整理を通じて次年度の成果発表の準備をしていく。