国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

医療と制度:南インド社会にとっての公的伝統医療と伝統的治療師の関係性(2020-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究 代表者 松岡佐知

研究プロジェクト一覧

目的・内容

インドにおいては医療制度に取り込まれ、近代医療と同様に大学教育により医師が養成される伝統医療(アーユルヴェーダ等)と、公的には医療と認められない伝統的治療師(vaidya)が並存している。本研究では、南インドを事例に、類縁性を持ちながら異なる性質を持つ制度的伝統医療と伝統的治療師が、治療提供者としてどのような相互関係性を持ち、また人々が望む治療や生老病死のあり方を支えているのかを明らかにする。そして、単に治療効果だけでなく、個人や社会にとって、医療制度の枠にとらわれない医療が、制度的医療との関係の中で、いかに機能しうるのか、その可能性と限界について質的・量的データに依って議論する。インドを含め世界的に慢性疾患が増加し、公的資金が逼迫する状況で、医療制度外の資源に着目することで、制度のあり方について問い直し、医療と制度の関係について、社会や人間全体性の視点から、新たな知見を提供する。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

南インドのケーララ州の生態・社会経済状況の異なる3地域において、人口動態、疾病構造、公的医療施設などの地域状況を基礎データを収集する。その上で、それぞれの地域における伝統的治療師(vaidya)と呼ばれる人々の(1)治療実践や地域における役割などの特徴、制度的伝統医療との生業実践における具体的な関わり、(2)伝統的治療師/制度的伝統医療を訪れる患者の苦しみや望む生老病死のあり方に、性質の異なる2タイプの伝統医療がどのように応答しているのかについて、参与観察、質問票に基づく自由会話形式で、患者と治療者から、聞き取りをする。それらのデータをまとめ、(3)伝統的治療師の性質や特徴による制度的伝統医療システムとの関係性の差異や互いの治療実践へ影響、(4)伝統医療を制度化することによって損なわれる要素や、制度がカバーすることが困難な医療に求められる要素とはどのようなことかについて考察する。
伝統的治療師の独自の観念によって語られる病いについては、主訴や症状などからICD-国際疾病分類を元に分類を行い、量的な比較を行うと同時に、分類をまたぐ症状や疾病未満とされる病いについても質的データとして、慎重に扱う。