国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

東南アジアへ拡散したオーストロネシア語族の土器・埋葬文化に関する学際的研究(2020~2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|挑戦的研究(開拓) 代表者 小野林太郎

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、①考古学的な発掘調査の実施と②人類学的な人骨の科学分析により、海域アジアの大半を占める東南アジア島嶼域へ新石器文化を持ちこんだ初期オーストロネシア語族の実像に迫る挑戦的研究である。本研究の方法論的特長は、従来の研究では各地域で個別にしか行われていなかった土器の分析を、共通の視点や新たな分析手法も取り入れ、同時に行う点にある。また本研究の方法論における二つ目の特徴は、インドネシアとフィリピンの両地域を対象とした発掘調査の実施に加え、出土が予想される土器や副葬品の考古学的分析と、埋葬古人骨の形態やDNA解析も含めた人類学的分析の両分野からの複合的な比較分析を同時に行う点にある。こうした学際的なアプローチにより、初期オーストロネシア語族の物質・葬送文化を明らかにするのが目的となる。同じくオセアニアも含めた新石器時代における物質・葬送文化に関しても、マクロな視点からの総合的な検討を行う。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

新石器時代以降における東南アジアからオセアニアへの人類移住は、近年の研究成果により、中国南部から台湾域がその起源地である可能性が高まりつつある。時代的には日本列島における渡来系弥生人の出現期とも重なり、海域アジア全体で人類の移動が活発化した時期に当たる。本研究はこのうち、東南アジアを経由し、オセアニア全域への拡散に成功したオーストロネシア語族の初期移住期における土器と埋葬文化の謎に迫る。
オセアニアに移住後の土器文化については、メラネシアのラピタ土器を中心にその実態が明らかとなりつつある一方、より古い東南アジアにおける初期の土器文化には不明な点が多い。埋葬や葬送文化についても、オセアニアでは甕棺を伴う二次埋葬が確認されつつある。そこで本研究では、オセアニアのラピタ土器に類似する土器が発見されたフィリピン・インドネシアを対象とした先史遺跡の発掘調査を軸に、考古学的かつ科学的な土器研究と埋葬遺跡より出土する先史人骨群を対象とした人類学的な形態・同位体・遺伝子分析により、初期オーストロネシア語族の実態に迫る。
また学際的研究を実施するにあたり、本研究には複数の研究分担者と共に実施する計画である。各研究者は主に発掘調査や土器を中心とした出土遺物の考古学的分析を担当する考古班と、出土が予想される先史人骨の形態・同位体分析を担当する人類研究班に属しつつ、各自の研究を進める。また本研究において新たに発掘された先史人骨の一部は、国内外の関連研究機関との共同研究という形で、遺伝子分析も行う計画である。またフィリピン、インドネシアにおける発掘調査は現地のカウンターパートとの共同調査として実施され、その成果も共同発表を原則とし、国内外における学術誌、学会等にて積極的に公表していく計画である。