国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
english site

国立民族学博物館研究報告

『国立民族学博物館研究報告』は、民族学(文化人類学)の発展に寄与するために、国立民族学博物館が刊行する研究誌です。この目的に即して、民族学、人類学および関連諸科学に関する論文、書評論文、資料、研究ノートを掲載しています。年4回出版。

研究報告投稿規程  研究報告執筆要領  研究報告申請書  研究報告チェックシート
国立民族学博物館研究報告 2019 44巻1号

2019年7月25日刊行

バックナンバー

目次

 

43巻4号 All 44巻2号

概要

論文

 

国立民族学博物館における大阪府北部を震源とする地震による収蔵庫の被害と対応
園田直子

2018 年6 月の大阪府北部を震源地とする地震は,国立民族学博物館(以下,民博)の建物,収蔵什器,資料に数々の被害を与えた。地震当日,収蔵庫において最も緊急を要したのは,2 階展示場のスプリンクラーヘッドの一つが外れ散水したために生じた,第3 収蔵庫の水漏れとそれに伴う冠水資料への対応であった。翌日以降は,冠水資料の乾燥,冠水棚周辺の資料の再点検,少数ではあるがカビが発生した資料への対応が中心となった。全収蔵庫を対象とした被害状況調査は,点検者,撮影者,記録者の三人一組で実施し,資料については水濡れ,破損,落下,転倒,ズレ,固定ひものゆるみ,その他を確認し,収蔵什器では棚の移動・ズレ,ひきだしの飛び出しを中心に調査した。上層階の収蔵庫に被害が多い傾向がみられるとはいえ,収蔵庫の位置および棚の並び方向と,被害の大小には明らかな関連はみいだせなかった。一方,棚の縁の立ち上がりや落下防止バーは資料の落下防止に,紙製の箱は水分を吸収することで冠水資料の被害の軽減に効果がみとめられた。民博では2004 年度より,資料の収納・保管方法の改善および効率的な再配架を目的に収蔵庫再編成を進めてきた。収蔵庫再編成を実施した収蔵庫において破損資料が少なかったことは,その有効性が実証されたと考える。今回の地震での経験と教訓をもとに,民博では,より一層安全な収蔵庫および収蔵環境の構築を目指す。

1 はじめに
2 地震当日の対応
  2.1 第3 収蔵庫の水漏れ
  2.2 収蔵庫の緊急点検
  2.3 冠水資料への対応
3 地震後の対応
  3.1 冠水資料の乾燥
  3.2 冠水した固定棚周辺の再点検
  3.3 カビが発生した資料への対応
4 全収蔵庫の被害状況調査
  4.1 被害状況調査
  4.2 資料の被害状況
  4.3 収蔵什器の被害状況
5 地震で得られた知見と考察

* 国立民族学博物館

キーワード:大阪府北部地震,収蔵庫,被害,冠水,資料,収蔵什器

 

大阪府北部を震源とする地震で被災した国立民族学博物館の復旧活動
日高真吾

2018 年6 月18 日午前7 時58 分頃に発生した大阪府の北部地域を震源地とする地震は,マグニチュード6.1,死者6 人,負傷者443 人という被害をもたらした。国立民族学博物館は,震源地から西に約6 ㎞の位置にあったが,開館時間 前の発生であったため,館内での来館者,教職員,大学院生に被害はなかった。しかし,建物自体は阪神・淡路大震災以来の地震被害となり,地震発生から9月13 日まで約3 か月間の休館を余儀なくされた。
そこで本稿では,展示場と図書室に関連する施設と,展示場,図書室の3 つの区域の復旧活動を改めて振り返りながら,地震発生直後の初動,被害状況の把握のための調査と復旧計画の策定,復旧の活動を検証し,被災した博物館の災害対応の在り方について考察する。その結果,本稿では,大阪北部地震による国立民族学博物館での復旧対応は,博物館が被災した場合の復旧,再開に向けての基本的な活動となることを明らかにした。
このなかで,初動では,現場にいる教職員が現状を確認し,自らの判断で行動するための危機管理マニュアルの重要性,復旧作業をより実効的におこなうために,事務所掌を横断的に統括し,復旧業務を監修する組織作りの重要性を指摘した。次に被害状況の把握では,各担当部局の報告の程度に差が出ないよう,定型化されたフォームのなかで報告事項を取りまとめ,予算計画,復旧計画を策定することの有効性を明らかにした。そして復旧活動では,作業監督者は作業者の安全性を第一に考えることと,作業者の目にみえない疲労に留意し,しっかりと休憩時間を確保することの必要性を示した。

1 はじめに
2 被災後の初動について
  2.1 被災当日の動き
  2.2 被災状況の確認
  2.3 復旧体制の構築
3 被害状況の全容解明と復旧計画の策定
  3.1 展示場と図書室に関連する施設の被害状況
  3.2 展示場の被害状況
  3.3 図書室の被害状況
  3.4 復旧計画
4 復旧作業
  4.1 展示場と図書室に関連する施設の復旧作業
  4.2 展示場の復旧作業
  4.3 図書室の復旧作業
5 おわりに―展示場・図書室の復旧作業を振り返って

* 国立民族学博物館

キーワード:災害,地震,博物館,地震で被災した博物館,博物館の復旧

 

アグリビジネスから食の民主主義へ
―岐路にある日本とフランスの食と農―
竹沢尚一郎

食と農は人類学の主要分野のひとつだが,わが国の人類学的な食研究は多様性の理解にアクセントが置かれ,現在世界中で進行している食と農の急速な変化に目を向けることはほぼなかった。本研究は,アグリビジネスによって主導されている世界中の農業の変化と,それへのオールタナティブとしての新たな食体系の創出の試みを具体的なケースに沿いながらたどるものであり,よりグローバルで再帰的な性格をもっている。
アグリビジネスは20 世紀初頭以来急速に発展した産業分野であり,トラクターや化学肥料・除草剤,1980 年以降は遺伝子組み換え作物を開発することで日本を含めた世界中の農業に多大な影響を与えてきた。こうしたアグリビジネス主導の農業に対し,公然と反旗を翻しているのが欧州連合とフランスの農業政策である。1990 年代に確立されたそれは,農業の多面的機能の概念にもとづき,農業を単なる経済的活動としてではなく,農業が環境保全と地域社会の維持,地域経済活性化のための核心的ファクターであるととらえている。
そこから欧州連合は有機農業に積極的な保護をおこない,各国での急速な発展につなげている。2016 年の全耕地面積中の有機栽培農地の割合は,オーストリア21.9%,スウェーデン18.0%,イタリア14.5%であり,とりわけ注目されるのがフランスである。それは2007 年に1.9%と低率であったのが,2011 年3.6%,2016 年6.6%と急速に進展している。
一方,わが国の有機農地の割合は,2007 年0.1%,2011 年0.2%ときわめて低く,その後も大きな変化はない。その原因は,政府の農業改革が失敗に終わったこと,化学肥料と農薬の販売で多大な利益を上げている農協が有機農業に背を向けていること,兼業によって安定した収入を確保している農業者が手のかかる有機農業に不熱心なこと,などにある。
有機農業の進展は,政府の政策だけでなく,農業者や消費者の意識的な行動にもよっている。農業者が生産物を直接販売するファーマーズ・マーケットや,生産者と消費者が契約をむすぶCSA やアマップなどの活動も各国でさかんになっている。わが国でもこれらの活動は近年活発になっており,生産者と消費者を直接に結びつける試みとして生活クラブに代表される消費者運動や「食べる通信」などの活動を挙げることができる。
これらの活動は,生産者と消費者のあいだの信頼関係を重視し,両者に積極的な関与をうながし,生産にかかわる情報を公開し,なにを生産しなにを食べるかという生産者と消費者の自己決定権を尊重する点に特徴をもつ。これらの特徴は民主主義のそれと共通するものであり,私がこれらの実践を「食の民主主義」と呼ぶのはそのためである。 本稿は具体的なケースにもとづきながら,これらの実践にどのような可能性があり限界があるかを検討することで,私たちの食と農の未来を展望しようとするものである。

はじめに―アグリビジネスの終わりの始まり?
1 アグリビジネスの誕生と発展
2 アグリビジネス主導の農業に対する批判
3 フランスとヨーロッパの農業政策とそれによる変化
4 日本の農業政策と農業改革の不首尾
5 オールタナティブとしての有機農業
6 日本における有機農業・減農薬農業の広がりと課題
7 マーケットを通した食料生産者と消費者の関係性
8 食の民主主義へ
おわりに―関係性としての農と食

* 国立民族学博物館名誉教授・フランス社会科学高等研究院日仏財団フェロー

キーワード:有機農業,アグリビジネス,食の民主主義,農業政策,アマップ

 

参加と競争のはざまにおけるテクノロジーをめぐって
―スペイン・カタルーニャ州の人間の塔を事例に―
岩瀬裕子

本稿は,スペイン・カタルーニャ州の祭りで220 年以上にわたって行われている人間の塔における計測を主題にして,どのようなデジタル・テクノロジーが用いられ,それに対して人びとがいかに対応しているのかを民族誌的調査を通して明らかにするものである。人間の塔は,人が人の肩の上に上り下りして造られ,その高さや構造の複雑さで競われるものである。筆者が調査する最古参のグループでは,塔造りに必要な参加者を把握するためにテクノロジーを利用する動きはあるが,人間を正確に測り塔の構造に反映させるためにテクノロジーは利用していない。人びとが用いるのは,経験的に獲得,定着させてきた主として身体感覚に依拠したテクノロジーである。こうしてデジタル・テクノロジーの受け入れに伴う領域に差異がみられる背景には,身体ひとつで塔を造る人びとの「人間とは正確には測れないもの」という直観的な感覚と,「測ること」で失われてしまうことを危惧する二者関係があることを考察する。

1 はじめに
2 先行研究と調査方法
3 調査対象
  3.1 人間の塔とは
  3.2 人間の塔における競争と参加にみられるバランス
   3.2.1 程よい競争のために
   3.2.2 継続した参加のために
  3.3 塔の種類と構成
  3.4 ベリャの人びと
4 人間の塔におけるテクノロジー導入とそれに対する反応
  4.1 指紋認証システム
   4.1.1 指紋認証システムの導入でみられた反応と明らかになったこと
  4.2 メンバー把握システム
   4.2.1 メンバー把握システムがもたらすもの
   4.2.2 ベリャに見られる「人的・空間的システム」
  4.3 そもそも,なぜ,出席確認が必要なのか
  4.4 高さのために科学的に測ること
5 考察
  5.1 進む情報化
  5.2 人間は正確に測れないとする直観
  5.3 二者関係の束としての人間の塔
6 おわりに―今後の研究の可能性に触れて

* 首都大学東京大学院

キーワード:カタルーニャ州,人間の塔,参加,競争,テクノロジー

 

 

43巻4号 All 44巻2号
『国立民族学博物館研究報告』へのお問い合せ:
国立民族学博物館 編集室
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Fax: 06-6878-7503
email: editorial★minpaku.ac.jp
★を@に置き換えて送信ください。