国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
english site

国立民族学博物館研究報告

『国立民族学博物館研究報告』は、民族学(文化人類学)の発展に寄与するために、国立民族学博物館が刊行する研究誌です。この目的に即して、民族学、人類学および関連諸科学に関する論文、書評論文、資料、研究ノートを掲載しています。年4回出版。

研究報告投稿規程  研究報告執筆要領  研究報告申請書  研究報告チェックシート
国立民族学博物館研究報告 2018 42巻4号

2018年6月14日刊行

バックナンバー

目次


42巻3号 All 43巻1号

概要

 

 

エスニシティを可視化する手段としての衣服
―台湾原住民族サキザヤ族の民族認定を事例として―
野林厚志

 本稿の第一の目的は,台湾原住民族の1 集団であるサキザヤ族がエスニシティを可視化するための一つの手段として,特定の民族への帰属を見るものに感じさせる新たな衣服を作り出した過程を紹介することである。そのうえで,民族の衣装の生成に関わる社会関係,民族間関係,政治性,真正性に関わる当事者の意識,経営性について考察を試み,エスニシティという観点からの衣服の機能論を示す。
 サキザヤ族がエスニシティを可視化する目的は,公的にアミ族に分類されていた状況から,独立した民族としての認定を得る必要があったからである。そのための一つの要素として民族特有の衣服が求められた。
 しかしながら,その衣服に関する歴史的な資料がほとんどない状況のなかで,サキザヤ族は衣服の製作に創作という手段をとった。他の原住民族やホスト社会の多数派である漢族の影響を受けてきたサキザヤ族のエスニシティが示される衣服は,サキザヤ族を他の民族集団と区別しながら歴史的に継承されてきた衣服ではなく,サキザヤ族と他の民族集団の差異化をはかり,自民族のアイデンティティを高めることが求められた状況のなかで,彼らが作り出した創作物であった。製作された衣装にはサキザヤ族の歴史経験や世界観が象徴的に埋め込まれるとともに,他の民族との関係性が示された。これらの衣服が普及していく範囲が,アイデンティティの共有範囲とつながり,サキザヤ族のエスニシティを対外的に可視化することに成功した。一方で,文様や装飾には分離する対象となるアミ族との関係性を示すものが部分的に存在した。
 着用する者がアイデンティティや文化的な特徴を強調するだけでなく,着用した姿が他者から肯定的に受け取られるような役割を果たすことが,台湾における原住民族の民族衣装には期待されていたことは,対外的な配慮とそれを果たすことによって自己を存在させる機能が衣装の重要な機能の一つであることを示しているのである。

1 目的
  1.1 衣服におけるエスニシティの表現
2 原住民族と正名運動
3 サキザヤ族の「正名」運動
4 新たな衣服の創作過程
5 衣服の構成と配色の含意
6 衣服におけるアミ族との関係性とサキザヤ族エスニシティ
7 考察
  7.1 民族間関係の中の衣服
  7.2 衣服の歴史性と真正性 8 結び

* 国立民族学博物館

キーワード:衣服,エスニシティ,サキザヤ族,台湾原住民族,正名運動

 

 

フランソワ・ペティス・ド・ラ・クロワ(1653~1713)の著作目録のための新資料
西尾哲夫・岡本尚子

1 Objet de recherche
2 Biographie de Pétis de La Croix
3 Document inédit à propos des ouvrages de Pétis de La Croix
  3.1 Le rédacteur du document: l’Abbé Philippe Drouyn
  3.2 Texte critique
4 Référence pour comparaison
5 Pour la réhabilitation de Pétis de La Croix

* Musée national d’ethnologie

キーワード:フランソワ・ペティス・ド・ラ・クロワ,フィリップ・ドルワン,ビブリオグラフィー,アントワーヌ・ガラン,アラビアンナイト

 

 

日本の博物館環境における労働倫理の研究
―国立民族学博物館を事例として―
アレックス・デ=ヴート, 太田心平**, ジョーナス・W・B・ラング***

 Museums are organizations that, depending on their size, each have a unique combination of workers. Typically included are employees whose duties are concerned with visitors, the public raison d’être of a museum. Collections and exhibits require academically trained specialists while the organization as a whole needs administrators and managerial staff. In addition, there are possible for-profit activities, such as museum shops and restaurants, in an otherwise mostly non-profit environment. This situation may be further complicated by volunteer, temporary, part-time, long-term or even tenured contracts for the people involved.
 The unique and complex combination of workers of a museum is commonly housed in a singular building, a space in which all people may interact or encounter each other daily. As a result of the organic relationships among all staff members, the organization is still a whole, i.e., a museum, and not a combination of unrelated practices.
 When employees of organizations are studied within management or organizational psychology disciplines, this diversity among employees is often absent. Non-profit organizations are already less often studied but especially part-time and non-managerial workers are rarely included in surveys that seek to understand organizational behavior (Bergman and Jean 2015).
 The following study of people working at the National Museum of Ethnology, or Minpaku, a Japanese institution with the largest ethnographic collections in Japan, includes a wide array of employees. They were provided with a one-page questionnaire on work ethic to confirm or contrast results from previous research elsewhere. Where the findings contradict earlier studies, recommendations are made for future research in which studies on museum organizations can play a pivotal role to address the needs in fields of management and organizational psychology.

1 Work Ethic
2 Theoretical Ideas about the Changes in Work Ethic
3 Setting and Contexts
4 Preliminary Ethnographic Study
5 Method and Measures
6 Results for the Minpaku
7 Discussion

* Department of Economics and Business, Drew University
** Department of Cross-Field Research, National Museum of Ethnology
*** Department of Personnel Management, Work, and Organizational Psychology, Ghent University

キーワード:博物館経営,組織心理学,組織マネジメント,ロッタリー質問,ポスト産業化社会

 

 

「人種」と「人種主義」をめぐる博物館展示の動向
―フランスの人類博物館とアメリカ人類学会の展示会の事例―
亀井伸孝

1 はじめに―本報告の目的と背景
  1.1 近年における人種主義の再燃
  1.2 人類学および博物館の役割
  1.3 フランスとアメリカにおける展示会の試み
2 【事例1】フランス,人類博物館による展示会
  2.1 展示会の概要紹介
   (1)分類をめぐる政治性
   (2)人種主義の構築過程
   (3)人種主義がもたらした悲劇
   (4)世界の他の地域の事例
   (5)自然科学の成果
   (6)素朴な疑問と回答
   (7)フランス社会における現状
  2.2 展示会のおもな特徴
3 【事例2】アメリカ人類学会による展示会
  3.1 展示会の概要紹介
   (1)総論的なエントランス
   (2)歴史的経緯とアメリカ社会の現状
   (3)新しい成果と未来への提言
  3.2 展示会のおもな特徴
4 フランスとアメリカの展示会を比較して
  4.1 両展示会の共通点
  4.2 両展示会の相違点
5 おわりに―同時代における意義と課題,今後への示唆
  5.1 同時代におけるふたつの展示会の意義
  5.2 残された諸課題
  5.3 日本における今後への示唆

* 愛知県立大学

キーワード:人種,人種主義,博物館展示,人類博物館,アメリカ人類学会(AAA)


42巻3号 All 43巻1号
『国立民族学博物館研究報告』へのお問い合せ:
国立民族学博物館 編集室
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Fax: 06-6878-7503
email: editorial★idc.minpaku.ac.jp
★を@に置き換えて送信ください。