国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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国立民族学博物館研究報告

『国立民族学博物館研究報告』は、民族学(文化人類学)の発展に寄与するために、国立民族学博物館が刊行する研究誌です。この目的に即して、民族学、人類学および関連諸科学に関する論文、書評論文、資料、研究ノートを掲載しています。年4回出版。

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国立民族学博物館研究報告 2019 43巻4号

2019年3月13日刊行

バックナンバー

目次

 

43巻3号 All 44巻1号

概要

論文

 

カワウの人工繁殖をめぐる漁師の技法と生殖介入の動機
―中国雲南省洱海における鵜飼い漁師たちの繁殖技術の事例から―
卯田宗平

 本稿の目的は,中国雲南省洱海の鵜飼を対象とし,漁師によるカワウの繁殖技術を明らかにしたうえで,鵜飼い漁ができない状況においても人工繁殖を続ける要因を考察するものである。まず本稿では,これまで問われることがなかった洱海の繁殖技術を現地調査と事例比較によって検討した。その結果,カワウの卵を一時的に保管することや孵化のタイミングを同調させること,雛を親鳥に育てさせることなどの特徴があることを明らかにした。くわえて,一連の繁殖作業では,漁師たちの作業内容や作業量が少なく,作業時期にそれ以外の時間を確保できることもわかった。すなわち,漁ができない状況においてもほかの仕事と並行しながら人工繁殖を継続できる条件があったのである。
 この成果を踏まえ,さらに本稿では,漁師たちが人工繁殖を続ける動機を検討した。その結果,野生の個体を捕獲しにくい洱海では,漁ができない状況になると放鳥し,将来的に再開されたときに捕獲するという対応がとれないことがわかった。そのため,所有するカワウの全生活史を管理下におき,そこで世代を超えて飼育するという動機が生まれると指摘した。筆者はかつて日本の鵜飼研究の成果を踏まえ,ウ類の捕獲のしやすさ/しにくさという要因が日中両国の鵜飼におけるウ類への働きかけに違いを生みだすという作業仮説を示した。本稿では,さらに中国での事例をくわえた結果,この作業仮説はウ類の生態に介入する動機を説くための視座として無理はないと結論づけた。

1 問題意識
2 雲南省大理白族自治州の洱海における鵜飼―その歴史と現状
  2.1 大理白族自治州大理市の洱海について
  2.2 洱海における鵜飼の歴史と現状
  2.3 鵜飼い漁の観光化とその後の禁漁
3 カワウの飼育環境と一連の繁殖作業
  3.1 S村の漁師たちによるカワウの飼育方法
  3.2 S村における一連の繁殖作業
4 S村におけるカワウの繁殖技術の特徴―山東省・江蘇省との事例比較
  4.1 カワウに対する共通した働きかけ
  4.2 カワウに対する異なる働きかけ
  4.3 繁殖技術に違いがみられる要因
5 考察―なぜカワウの人工繁殖を続けるのか
  5.1 人工繁殖を維持できる条件
  5.2 カワウの人工繁殖を続ける動機
6 結論と今後の課題

* 国立民族学博物館

キーワード:鵜飼,人工繁殖,ドメスティケーション,洱海,カワウ

 

フェアトレードを支援する
―文化人類学による研究と批判―
鈴木紀

 本稿は,文化人類学がフェアトレードをどのように支援できるかを検討するものである。そのために,第1 に文化人類学的研究の主な貢献は,フェアトレードの言説と実践を比較し,その齟齬を明らかにすることであることを示す。第2 に,フェアトレードに批判的な研究成果を提示する際には,北の消費者が南の生産者に対して抱く連帯感を考慮し,建設的な批判となるための工夫が必要であることを主張する。こうした考察を進めるにあたって,本稿では,国立民族学博物館で実施したフェアトレードに関する2 つの国際シンポジウム「フェアトレード・コミュニケーション―商品が運ぶ物語」と「倫理的な消費―フェアトレードの新展開」の成果,および著者によるベリーズのカカオ生産者に関する研究を参照する。

1 序論
2 フェアトレード研究の理論的枠組み
3 フェアトレード言説の中の生産者
  3.1 生産者の表象
  3.2 フェアトレードの効果
  3.3 小括
4 フェアトレードの言説と実践
  4.1 生産者を消費する
  4.2 紅茶農園のフェアトレード
  4.3 小括
5 ベリーズのカカオ生産者とフェアトレード
  5.1 ベリーズにおけるカカオ生産の展開
  5.2 マヤ・ゴールド・チョコレート
  5.3 フェアトレードよりもフェアに
  5.4 小括
6 フェアトレード生産者への連帯感
  6.1 連帯感の醸成
  6.2 再フェティッシュ化批判の方法
7 結論
附論

* 国立民族学博物館

キーワード:フェアトレード,支援,言説,実践,連帯,物神崇拝

 

グローバル支援の時代におけるボランティア
―青年海外協力隊の「コミュニティ開発」ボランティアをめぐって―
白川千尋

 本稿の目的は,国際協力ボランティア,より具体的には日本の青年海外協力隊(JOCV)の「コミュニティ開発」という職種のボランティアに焦点を当て,その支援活動の特徴や可能性をめぐって考察を行うことである。この目的にアプローチするために,本稿では,「コミュニティ開発」のJOCV による活動と,国際協力機構(JICA)の専門家,および文化人類学者による支援活動の事例の比較検討を行う。そして,それを通じて,「コミュニティ開発」のJOCV の,国際協力活動における「アマチュア」としての位置づけを確認するとともに,その専門性の低さがもち得る可能性について指摘する。

1 はじめに
2 JOCV と「コミュニティ開発」
3 JICA 専門家と「コミュニティ開発」のJOCV
4 文化人類学者による支援活動
5 文化人類学者と「コミュニティ開発」のJOCV
6 「コミュニティ開発」のJOCV の可能性

* 大阪大学大学院

キーワード:ボランティア,青年海外協力隊,コミュニティ開発,JICA 専門家,文化人類学者

 

フィジー都市部に居住するバナバ人のエスニシティと自己認識の複相性
風間計博

 バナバ人は,第二次世界大戦終了後,中部太平洋に位置するバナバ島からフィジー諸島のランビ島へ,強制移住させられた人々である。従来のバナバ人に関する人類学的研究は,英国植民地主義の被害者として,人々の歴史経験と歴史表象を論じることに重点が置かれ,現在の生活を直視してこなかった。そこでは,望郷の念を抱く人々と土地との結合を前提とした,固定的なバナバ人像が描かれてきた。対して,本論文では,これまで等閑視されてきた,ランビ島から都市へ二次的に移住した「不可視の」少数者としてのバナバ人を対象とする。そして,都市に居住するバナバ人が多様な他者と接触し,日常的に自己認識をいかに構成/再構成しているのかを例証する。本論文では,都市において複数の結節点を築きながら,エスニックな固有性に必ずしも拘泥せず,キリバス系住民に包含されるバナバ人像が提示される。一方,都市中間層の一部は,かつてバナバ人が独自の言語や形質をもっていたという,バナバ島に根ざした固有のエスニシティが存在していた証拠を探し求めている。本論文の目的は,都市に居住するバナバ人が日常的に示すキリバス系住民としての柔軟性と,ナショナリズムを基礎づけるバナバ人像の硬直性が交錯した領域に着目して,都市に住まうバナバ人のもつ,複相的な自己認識のあり方について,認知論的視点を軸に考察することである。

1 問題の所在
1.1 バナバ人の描かれ方
  1.2 強制移住の歴史経験
  1.3 土地と人間の関係
2 都市に居住するバナバ人
  2.1 フィジーの首都スヴァ
  2.2 「不可視の」少数者―キリバス系住民
3 都市の拠点に集うバナバ人
  3.1 バナバ人の活動拠点
   3.1.1 ランビ島議会事務所
   3.1.2 メソジスト教会
   3.1.3 カヴァ店
  3.2 キリバス系住民の錯綜した関係
  3.3 認知論的視点
4 「純粋なバナバ人」の希求
  4.1 ナショナリストの横顔
  4.2 「原バナバ人」の伝承
  4.3 科学的証拠
  4.4 文化的固有性の探究
5 エスニシティの抽象的構築
  5.1 主張の妥当性
  5.2 差異の解釈
6 ―交錯する2つの位相

* 京都大学

キーワード:都市,強制移住,エスニシティ,バナバ人,フィジー

 

減圧症リスクとダイブ・コンピュータ
―観光ダイビングにおける身体感覚/能力の増強とリスク認知―
市野澤潤平

 観光ダイビングは,近年マリン・レジャーとして人気が高まり,世界中に多数の愛好者がいる。海棲生物との出会いや海中での浮遊感を楽しむダイビングは,熱帯域のビーチリゾートでの観光活動の定番の一つとなっている。
 しかしその一方で,人間が呼吸することができない水中に長時間とどまることから,スクーバ・ダイビングは本質的に危険な活動である。スクーバ・ダイビングは,窒息死を始めとする,様々な身体的リスクの源泉でもある。
 本稿は,観光ダイビングを,かつては人間が滞在することの能わなかった水中という異世界へと進出する活動として捉える。観光ダイビングの実践においては,水中での人間の身体能力の限界を補うために,多様なテクノロジーを活用して事実上の身体能力の増強がなされている。本稿は,そうした各種テクノロジーのなかでもとりわけ,水中滞在時間と深度を計測して減圧症リスクを計算する技術/機器としてのダイブ・コンピュータに着目して,その導入と普及によって成立しているダイバーにおける独特なリスク認知の様相を,明らかにする。

1 はじめに
2 観光ダイビング―驚異に満ちた異世界への探訪
3 水中への人間の進出を実現する,身体能力増強のテクノロジー
4 潜水中の高圧環境がもたらす危険
5 減圧症リスクとダイブ・コンピュータ
  5.1 減圧症とは何か
  5.2 窒素の体内への/における〈浸潤〉
  5.3 LPHCリスクと累積的リスクへの予防的態度
  5.4 ダイブ・コンピュータ―減圧症リスクを可視化するテクノロジー
  5.5 減圧症リスクの重圧とダイブ・コンピュータへの過信
6 おわりに

* 宮城学院女子大学

キーワード:観光ダイビング,ダイブ・コンピュータ,減圧症,リスク認知

 

 

43巻3号 All 44巻1号
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